結局部屋にはコノハとイッセだけが残った。イッセは部屋に帰る気力もなく、さっきまで千川が座っていた椅子に腰をかけた。目の前のテーブルに勢いよく突っ伏す。頭が痛い。

 覚悟はしているつもりだった。戦う覚悟も守る覚悟も。ついさっきだって生きる覚悟を決めたばかりだ。けれど失う覚悟なんて――いつも煩いヨシノも黙っている。

 「わたしはしています、覚悟」

 意外にもそう言ったのはコノハだった。イッセに寄り添うように椅子を引き寄せ、隣に座る。徐に腕が触れ、コノハの存在を改めて意識した。

 コノハは生物学的には人間ではない。けれどイッセの分身として誕生した。短い間ではあるがすでにイッセにとって欠かせない存在になっている。それはただ単に、コノハというクロイドがイッセの欠けた部分を補ってくれる存在だからなのかもしれない。それでも大切に思うこの気持ちは間違いなくコノハを想って生まれたものだから……

 「駄目だ、いらない。そんな覚悟はっ」

 ドンッ

 大きな音に、コノハが驚いてイッセを見た。机を叩いた拳に力が入る。力強く正面を見据えると、ヨシノがむくりと起き上がる気配がした。

 ――俺も賛成。ようやくバランスとれてきたのに、二代目コノハとかキツイって。また一から力の制御とかしたくねぇし。次の奴がどんなかなんてわからないしな。コノハはうっさいけど扱い易いからいいよ。

 「そんなっヨシノさんあんまりです」

 ――だーかーらぁ、死ぬ覚悟なんていらねぇってことだよ。それくらい分かれって。

 照れ隠しなのかふんっとわざとらしく鼻を鳴らした。

 「うん、やっぱり誰も切り捨てられない。もちろんヨシノも。チームのみんなも。そのためにここにいるんだから。切り捨てる覚悟ができるなら、始めからこんなところにはいない」

 俺の話は無視かよとぼやきながらも「ま、そうだな」と賛同するヨシノの声はどことなく嬉しそうだ。

 コノハは何も言わず、決意を確固たるものにしたイッセの横顔を、優しく見つめていた。


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