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風呂場での経緯をコノハに話すと、満面の笑みで「よかった」と手を叩いた。
「よかったのかな?」
「よかったですよ。わたしちょっと心配だったんです。この先、イッセはなにもかも一人で背負い込んでいくのかなって。だから安心しました。嬉しいことも悲しいことも共有できる仲間って素敵ですよね」
ふふふ、と心底嬉しそうに笑われれば、これ以上なにも言うことはない。
確かにちょっと、いや結構変わってはいるが、山峰という人間の言っていることは至極まともで妙に説得力がある。素直にこの人は信頼できるし信頼したいと思える人物だ。
――俺もあいつ嫌いじゃねぇよ。
「あら、珍しいですね。ヨシノさんが嫉妬しないなんて」
と刮目したのはコノハだ。コノハの場合あくまでも口にすることは本心であり、そこに他意がないから厄介である。
――ふん、なんで俺が嫉妬するんだよ。
「だってわたしにはしたでしょ?俺のイッセを盗るなって」
――はぁぁぁ?
いつものこととはいえ賑やかだ。ただ第三者からは、コノハとイッセの二人がチグハグな会話をしているようにしか見えていないのだろうが。
コノハと一緒に生活するようになって笑うことが増えた。慣れないことも多いが、それが逆に余計なことを考える時間をなくしてくれているらしい。
アズマに生きると誓ったものの、生きることがこんなにも苦しいとは思わなかった。ここの施設に来てからも何度となく死にたいと願っては自分を叱咤してを繰り返してきた。でも今は違う。
だってもし俺が死んだら……俺がいなくなったらコノハは――
――変なこと考えてんなよ。
内側からヨシノに小突かれる。
――お前が死んだら俺もコノハも消滅する。当たり前だろ。まぁコノハの場合は消滅させられるといったほうが正しいのか。
「そっか。じゃあやっぱり俺は死ねないんだな」
「イッセ死ぬつもりでいたのですか?」
ぼそりと放ったイッセの呟きに、コノハの瞳が不安げに揺れた。
「まさか。ただ覚悟をしたんだ。強くなるために」
「そう、でしたか……」
あからさまホッとした様子で胸に手を当てると、コノハは小さく深呼吸をした。大きくまっさらな瞳にイッセの姿が映る。
「イッセ、わたしたちのためにも――うぅん、自分のためにイッセは生きてくださいね。わたしからのお願いです」
「仕事が回ってきた。後方支援だが実戦だ。千川、説明を頼む」
話を振られた千川がぐるりとメンバーを見渡した。緊迫した空気が伝わってくる。新人三人は呼吸するのも忘れて真っ直ぐに千川を見つめた。メクロイアになって初めての仕事だ。
「今回の任務は暗殺の阻止が目的になります。今夜行われる官僚会議において、
「ガインズの仇討ちか。でもそうしたら豊国カグロはどうするんですか」
「別班の担当になっている」
長月の質問に、千川に代わって山峰が答えた。「それだけですか」とイッセがすかさず質問を重ねると「それだけだ」と追撃を受け付けないひと言が返ってきた。
「情報の出所はわかりませんので、釣りの可能性も考えられます。が上が信用に足ると判断した案件です。よって我々は与えられた命令を確実に遂行し、評価を上げることに尽力します。以上です」
長月は不服そうに腕を組んだ。確かに今の話では豊国カグロを撃つのか守るのかも、誰が黒幕で敵なのかもわからない。ただ自分たちの任務には関係がないから無駄な情報は教えないということなのだろうか。
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