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「さぁ、今日から我々は共に命をかけて戦う同志だ。絆を深くし、腹を割って話し合うには鍋か風呂と相場が決まっているのだよ。遠慮することはない。さぁ入りたまえ」
「で、なんで風呂なんですか。チームで親睦を深めるんですよね?千川さんもクライもいないじゃないですか」
先輩命令で仕方なく服を脱ぎながら長月は山峰に噛み付いた。
「それはそうさ。だってここは男湯だからね。女がいたら困る。まぁ千川君ならそんじょそこらの男じゃ太刀打ちできないだろうがね」
くつくつと肩を揺らして笑う山峰に長月は呆れ顔で首を振る。暗にこの人は駄目だといっているのだ。
「まぁ噂でしか聞いてないから実際のところは知らないよ。ただイッセ君を嵌めようとした長月君がイッセ君の返り討ちにあった、ということに間違いはないかい?」
むくれた長月の代わりに服を脱ぎ終えたイッセが肯く。すでにまっ裸になっていた山峰の立ち姿は堂々としたものだ。
「ふむ。どうして長月君はイッセ君を嵌めたんだ?」
「それはっ」
「それは?なんだい?」
誰の趣味かはわからないが、寮の大浴場は歴史の資料でしか見たことのなかった昔の銭湯を模してつくられている。浴槽の壁一面には、今ではもう見ることのできない日本でいちばん高かったという富士山の絵が描かれていて、なかなかの迫力だ。
イッセは決してうまいとはいえないこの絵が嫌いじゃなかった。一人で入浴しているときなんかは、ぼーっと何十分も眺めていることだってある。でも今は一人ではない。湯の中で向かい合う二人の男の成り行きを静かに見つめていた。
「仲間内で嵌めるなんていうのは最低の行為だ。聞けば長月君はクラスでもトップの成績だったそうじゃないか。下手すれば落第だってしかねないことをどうしてしたんだろうね?」
近い距離から山峰に顔を覗かれ、長月は「別に」とぶっきらぼうに答えた。その不遜な態度が気に食わなかったのだろう。山峰の表情が不適に歪む。
「そうか、なら仕方ないね。身体に聞いてみようか」
溜息混じりに言うや否や、長月の「うっ」とくぐもった声が風呂場に響いた。焦りのようなものが滲んでいる。おそらく山峰になにかされているのだろうが、浸かったばかりの水面下でなにがどうなっているのかなんてイッセの知る由ではない。
「我を張るのもいいが、先輩の質問には素直に答えておいたほうが懸命だよ。こう見えて私は短気だからね。あぁ違った。私じゃなくてミカサがね、短気なんだ」
「まさか……」
長月の顔がさっと青褪めた。風呂に入るときまで融合しているなんて一体誰が予想しただろう。ミカサはパワー系だ。下手すると長月はー―
「わっ待って!すみません、待ってください!わかりました話します、話しますから」
離して――という悲痛な嘆願は果たして受け入れられたのか。長月は呼吸を整えながらポツリポツリと話し出した。
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