・
咲山とのマンツーマンの戦いに決着がついたイッセは他のメンバーの居場所を探った。この場合は目で見るより耳に神経を集中させたほうが早い。
南東か。
ある一方向から長月たちの声に混じってメンバー以外の声が複数聴こえてくる。さらに感覚を研ぎ澄ませてみれば、少しずつ場所を移動しながら混戦を続けている様子まで事細かに感じ取れた。
「助っ人に行くべきかな」
すでに答えは出ていたが、一応自問自答してみる。
――早く終わらせたいんだったら行くべきだよな。
かったるそうに応えたのはヨシノだ。
――それに一応お仲間ですから……ほっとけません。
しっかり〝一応〟はついているが、コノハは根が優しいのだ。おそらく他人を恨んだりしないのだろう。
――俺はとにかく疲れた。早く休みてぇ。
「ヨシノはクロイドなのに疲れるなんて大変だね。コノハは疲れ知らずなのにさ」
――お前なぁ。他人事みたいに言ってるけど自分のことだからな。お前だってそろそろ限界だろ。
「ははは。まぁね」
確かに集中力が落ちてきている。このままでは力のコントロールがうまくいかなくなるのも時間の問題だ。
――てことでさっさと終わらせるのが吉。
「だね」
イッセはぐっと顎を引くと、前方にいるであろう長月の姿を見据えながら、猛スピードで戦場に乗り込んでいった。
結果、イッセのチームは一人差で負けた。
途中まではイッセたちのチームが圧倒的な強さで敵を凌いでいたのだが、ヨシノの暴走(イッセもそれに付随する)により途中でイッセが逆臣となると、形勢は瞬く間に崩れ、勝敗の行方は怪しくなった。
敵味方関係なく暴れまくったイッセ(ヨシノ)は、執念で長月の首を獲ると、間髪を容れずに力技で襲ってきた高宮にその首を獲られてしまった。そしてその高宮も最後、僅かの差で競り負けてしまったのだ。
過去に類をみない激戦だったようで、この噂は他クラスにも瞬く間に広がっていった。
そして上官に呼び出されたのが一週間後のことである。
長月と高宮と三人、上官室の狭い空間に仲良く並んで棒立ちになっていた。後ろにはコノハたちクロイドが同じように一列になって並んでいる。
「君たちは今日からメクロイア候補生だ」
上官の淡々とした口ぶりに、一瞬聞き逃しそうになって反応が半歩遅れた。それは長月も同じだったのか「えっと……」と頭上にクエスチョンマークを乗せている。
「噂を聴いたよ。仲間同士で骨肉の争いをしたそうじゃないか」
はっと三人揃って息を呑んだ。こういうところだけは気が合うらしい。しかし周知の事実とはいえ、あまりいい噂ではない。長月にいたっては煮出しすぎた茶を飲ませられたような渋い顔をしている。
「いや、責めているわけではなくてね、そのハングリー精神が私は惜しいと思ったんだ。ぜひ君たちには現場でその力を発揮してもらいたい。どうだろう?」
口ぶりはあくまでも打診という体をとっているが、学生の自分たちには拒否権など存在しない。それに理由が何であれ候補生になれるのは願ったり叶ったりだ。
長月、高宮と続いて、イッセも「はい」と緊張した面持ちではあったが快諾した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます