試験内容は至って単純である。A・B・C三チームの内、どこが最期まで生き残るかという要はサバイバルゲームだ。

 身につけている分離スイッチを押された時点で終了になる。制限時間はない。範囲は敷地内(但し他クラスが授業中のため、校舎と寮内は除く)のみ。五人全員が戦線離脱した時点で、そのチームは負けとなる。

「よし、いこうっ」

「うんっ」

「オッケー」

「はーい」

「……」

 自然とリーダーは長月になっていた。普段の成績からもそれは当然の流れだったが、素直にやる気になれない。別に長月に不満があるわけではなく、いまさらどう仲間面したらいいのかわからないのだ。残りの二人に限ってはイッセの事を端からガン無視である。

「特別棟の裏手から回っていこう。俺とアイネが囮になる。ナツキとレツは目と耳がいいから安全な逃げ道の確保を頼む。敵を見つけても仕留めようとしなくていい。とりあえず生き残ることを考えて」

「わかった」

「はーい」

 囮を使って挟み撃ちを仕掛ける作戦だ。

「それでイッセだけど」

 長月に名指しされ、今日初めてみんなの注目を浴びた。

「実行役を頼む」

「え?」

 俺が?なんで?と思ったのはイッセだけではないはずだ。それでも役目を言い渡されていないのはイッセだけなのだから、冗談で言ってるわけではないのだろう。

「イッセにはここで本気を出してもらいたい」

「本気って」

 いつも本気だ……と正直に反駁したところで、益々みんなの反感を買うことになるのは目に見えている。そもそも実力もないのに上級クラスにいるなと、すでにクラス全員が怒り心頭に発しているのだから。

 困ったな。

 実行役というのは仲間からある程度の信頼があってするものだ。確実性が求められるポジションなのだから当然だろう。しかしこの場合は違う。一歩間違えれば逆にやられる状況にある。つまり試されている……か。

 通常なら当たり障りないイッセが囮になり、パワー系の高宮が前に出つつ、スピード系の長月がその隙を突くのがいちばん効率がいいはずなのだ。

 そこをあえてイッセ一人にやらせるというのだから、イッセからしてみたら負荷が大きいし、他のメンバーも賭けに近い。囮の二人は信用できるのか?

 無意識に顎を摩り逡巡する。しかしいくら頭で考えたところで結論が出る問題でもない。

「わかった。なんとか、やってみるよ」

「そうかありがとう。頼んだよ」

 ぽんと肩を叩かれ複雑に頷く。

「メンバーに感覚系のナツキとレツがいてくれてよかった。向こうはパワー系ばっかりだ。おかげでまだこっちには気づいていない。俺とアイネが正面に出ていったらイッセ、裏からよろしくな」

 みな一様に表情を引き締める。いよいよだ。

 三方に別れて息を潜めた。辺りが静かなせいで鼓動が大きく聴こえる。どうやら緊張しているらしい。我ながら細い神経だ。イッセはぎゅっと胸元を握り締め呼吸を整えた。遠くから自分に向けられている長月の冷めた視線が、余計にイッセの神経を抉る。

 大丈夫、俺はやれる。そう自分に言い聞かせ、イッセはヨシノとコノハの動きに集中した。

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