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「ヨシノ……ヨシノっ」
イッセは自分の中にいるであろうヨシノを呼んだ。身体の中心辺りでヨシノが渋々起き上がる気配を感じる。
「ヨシノ、今コノハが言ったことは本当?」
――知らねぇよ。俺だって物心ついたときにはお前の中にいたんだから。
久々に聞いたヨシノの声は不機嫌そのものだ。しかし今はそんなことを気にしている場合ではない。
確かに、ヨシノがクロイドならその知能はオーナーに付随するはずで、幼少期からイッセの中にいたのなら当時はその程度の理解度しかなかったはずなのだ。
「それじゃあヨシノは俺と一緒に成長しているってこと?」
――さぁな。けど事実として俺とお前は少なくても十年以上は共生してる。神代の親父も言ってたじゃねぇか、お前は特別な存在だって。
特別な存在。それはつまりこういうことなのか。
〝最強の人間兵器に成りえる存在〟
そんな馬鹿なと思うも疑念が払拭できない。
作文事件のときに蹴られた背中や腹の痛みが、帰るときにはなくなっていたことも、奇襲を受けてサクラやアズマが殺された時、折れた右腕が脅威の回復をみせたこともそれならば納得できる。
だけどそんな人間が存在するなんて……八十島の話ではクロイドとずっと融合しているのはおそらく不可能だろうとの見解だったはずだ。
『自分の存在を受け入れ、その価値を自覚するのだ』
神代のあの言葉、考えてみればこの事実を肯定しているものではなかったか。
「くくく……はははははっ」
そうだ、神代は実の息子を実験台にしたのだ。被験者に死なれては困る、そういうことだ。やっぱり所詮〝モノ“でしかなかった。
「イッセ?」
心配そうなコノハの顔が覗く。可笑しくて仕方がないはずなのに、心が吹きすさぶ雪の中に放り出されたように寒い。イッセは震える唇でヨシノに訊いた。
「ヨシノ、そういえばさ、前に俺の味方だって言ったよね。俺が守ってやるって」
――嗚呼。
ヨシノの答えに迷いはない。イッセは表情を引き締めた。
「それじゃあ頼みがある。俺は強くなりたい。そのためにはヨシノと、それとコノハの力も必要なんだ。言っている意味、わかるよね?」
――……嗚呼。
さっきより明らかに不貞腐れたヨシノの返事に、イッセは堪らずくすりと笑った。
「コノハも、ヨシノと仲良くできる?」
「はい」
こちらはいい返事である。さっきの泣きそうな顔はいつの間にか普段通りだ。
「ヨシノもこれくらい素直だったらねぇ」
――ケッ
いや、違うのか。ヨシノは捻くれているのではなく、ある意味素直すぎるのだ。実はこの二人、結構いいバランスなのかもしれない。しかもコノハに嫉妬したなんて、可愛いところもあるもんだ。
「そういえば融合してなくてもコノハはヨシノの声が聞こえるの?」
ふと疑問に思ったことを口にする。
「はい、聞こえています」
「じゃあさっきの会話も聞こえてたんだ?」
「はい」
あからさまに不可解そうな顔をしていたのだろう。コノハが「えっと」と説明を付け加えてくれた。
それによるとクロイドはトーテムという一つの万能物質からできていて、同じトーテムから生まれたクロイドは意識の共有を図ることができるのだそうだ。感覚的にはテレパシーと似たものらしい。
つまりこれによってヨシノもコノハと同じトーテムから生まれていると証明されたわけである。ずっとお兄さんでもその大元は変わらない。言い換えればやはりヨシノは神代が実験用につくりだしたクロイドだったということだ。
ショックといえばショックだが逆にすっきりもした。
「あれ?じゃあなんで分離スイッチでヨシノは分離しないんだろう」
「それは……」
――おそらく、コノハはプラスαだからだ。俺はお前と同じ細胞で成長してるからな。いまさら分離なんてできないんだよ。
「わたしもそうだと思います」
ちょっと、いや結構ヨシノの人型を見てみたいような気もしたが、無理矢理分離させようとすれば自分の体も無事では済まないに違いない。想像するだけで恐ろしい。
「それはうん、遠慮したいな」
イッセのひとり言に、コノハは「なにがですか?」と首を傾げた。
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