第二章 【仲間】
イッセはコノハと並んで立っていた。
眼前にはざっと三十人ほどのクラスメイトが座っている。正確には二十八人。イッセとコノハを入れて三十人だ。その内半数はクロイドだから、教室にいる人間の数は十五人。いや、担任を含めたら十六人か。
そんなどうしようもないことを考えている最中にも、教室の前方の壁一面に設置された電子ボードには、ざっとイッセについての紹介文が掲示されている。紹介文というより取説に近いそれにイッセは眉を潜めたが、クラスメイトたちは興味深々にそれらを眺めていた。
休み時間になって真っ先にイッセの元にやってきたのはいかにも爽やか風を吹かした軽い調子の男だった。隣にはそれとは正反対の不機嫌そうな顔をした女型のクロイドを連れている。
「はじめまして、俺は長月シュウ。隣の彼女はクレナ。俺のパートナーね。このクラスの一応リーダーやってます。寮にも昨日入ったばっかりなんだって?慣れないこと多いだろうから、困ったことがあったらなんでも俺に訊いて」
よろしくと差し出された手を遠慮気味に握る。周囲から寄せられる期待の籠もった視線が痛い。このまま黙って終わらせるわけにもいかず、イッセは詮方なく口を開いた。
「よろしく。えっとさっきも説明あったけど、俺はイッセ。そして彼女はコノハ」
「うん、可愛い」と長月は好奇心丸出しですかさずコノハに手を差し出した。それをなんともぎこちない動作でコノハは握り返している。さらにめいっぱいのぎこちなさで「コノハです」と隣のクレナにもしっかり挨拶を忘れない。改めてクロイドの単体で完成された個性に感心させられる。
顔も可愛いがコノハは声も繊細で可愛らしい。そして底抜けに純粋な彼女と、たった数日だが一緒に暮らしていること自体、イッセは不思議な感じがしていた。突然目の前に現れた女のコは人間じゃない上に全くの他人でもないなんて、どう接したらいいのか戸惑うばかりだ。
それと物心ついたときから一緒にいるヨシノ。可愛いとちやほやされるコノハが不服なのか、さっきからぶつぶつとなにやら呟いている。もちろんイッセの中に存在するヨシノは周りからは見えないし声も聴こえない。それでも煩いと文句を言えば倍になって返ってきた。このところいつもこんな調子だ。
嘆息してコノハを見れば、いつの間にかクラスの男どもに囲まれていた。助けを求めてちらちらとイッセに視線を送っている。しかしこれも性格なのだろう、断るということができないのか四方八方360度笑顔を振りまいている。あれじゃあ笑顔の大安売りだ。さすがにサービスしすぎじゃないかとイッセは眉根を寄せた。
「長月君ありがとう。確かにわからないことだらけでさ。孵化してまだ一週間だし、授業の内容も全然把握できてないから。困ったときには頼らせてもらうよ」
隙を作らないようつらつらと社交辞令を並べて、最期に「よろしくね」と強制的に話を締める。すかさず「コノハ、もういいから席に戻ろう」と助けに入れば、長月は「あぁ……」となんとも歯切れの悪い感じで席に戻っていった。
野次馬たちも「ヤな奴」「自慢かよ」と一気に興が冷めたように日常の会話に戻っていく。これでいいとイッセは知らん顔で外を見た。一面に人工的な青空が広がっている。窓際の席でよかったと少しホッとしながら目を閉じた。このときイッセの背後に落ちた黒い影を、コノハが心配そうに見つめていたことなど、イッセは知る由もなかった。
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