「いやぁ驚いたよ。シンクロ率96%、これはクロイドの完成が楽しみだね。ね、イッセくん」

「あ、その……はい」

 検査の結果を聴きに赴いた先で、イッセは白衣の男に捕まっていた。

「えっと今日はこれからお父さんに会うんだっけ?心の準備は……んーまだみたいだね?」

 目の前で屈託ない表情をみせている、どこか掴みどころのない男の言葉に「ははは」とイッセは苦笑した。

「なんか急に父といわれてもあまり実感が湧かないんです。物心ついたときには隣に伯父がいて、ずっと伯父を本当の父のように思ってきましたから。訊きたいことはいろいろとあるんですけど、ただ何を話したらいいのかもよくわからなくて」

 男はかける言葉が見つからないといった様子で、みるみる表情を曇らせると嘆息した。首をゆるゆる振りながら、俯いたイッセの肩にそっと手を置く。その眉はきっときれいなハの字を描いているのだろう。

「苦労してきたんだね」

 慰めるような男の言葉に、まるで横っ面をいきなり殴られたような衝撃を受けた。勢いよく顔を上げると、男は驚いたのか反射的にイッセの肩から手を離した。

「どうしたの?」

「いえ、ただ……」

 父は母と幼いイッセを置いて家を出た。つまり二人は父に捨てられたのだ。そしてその母もイッセが物心つくより前に亡くなってしまった。病気だったと聞いている。

 が、決してこれまで苦労はしてこなかった。むしろ兄弟のように育てられた従兄弟たちとの暮らしは何の不自由もなく幸せだった。時には厳しくもあったが、皆あたたかく優しかった。自分は決して可哀想な人間ではないと、過去を振り返ればより強く感じることができる。苦労してきたんだねなどと憐れまれるようなことは何もないのだ。

「俺、話すことを決めました」

 男の瞳が興味深そうにイッセを覗く。

「家族について……俺を育ててくれた、大切な家族について聞いてもらいたい」

 暫し二人の間に緊張した空気が流れた。本当の父親ではなく、育ててくれた〝父さん〟を家族と言い切ったイッセの心の内を、推し量っているのだろう。

 ふっと空気が揺れ動いた。

「うん、それがいい。あぁそうだ、私も司令に用事があってね、部屋まで一緒していいかな」

 つい今しがた思い立ったかのような口ぶりだったが、男が同行を希望したのは、イッセを気遣ってのことだった。というのは後になって気づくことで、今のイッセには男の言葉を鵜呑みして頷くだけの余裕しか、残念ながら持合わせていなかった。

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