覇王と蛇の女王3

 目を開くとシュナの泣きそうな顔がアシタカの目の前にあった。気を失ったというのは覚えている。柔らかく温かいなと思ったら大狼の体にもたれかけられていた。尾が一本なので王狼ヴィトニルか。


 夢を見た。丘の上でシュナと何故かティダと三人で流星を眺めている。そういう夢。あまりにも心強く、そして幸福だった。ティダの姿がなかったら最高だっただろう。


「健康には自信があったのだがな。息切れもあったし意識消失発作とは心臓か?困ったな……。しかし気分が良い。シュナ、君が夢に出てきた」


「熱いとうなされていました……。熱などないのに……」


 さあ、大丈夫だとアシタカは微笑みかけてシュナを抱き寄せた。やはり小さな体だなと思った途端とたんに引き剥がされた。見上げるとティダだった。目を細めるティダがアシタカを見下ろす。ティダが腰を落とした。それからアシタカの頬を軽く叩いた。


「この阿呆が。夢ではない。俺まで巻き込みやがって大混戦で上手くのぞけなかった」


「何の話だ?」


「あんなもの知らぬ方が幸せだろう。ヴァナルガンドが起きない」


 ティダがアシタカに向かってあからさまな安堵あんどの表情を浮かべた。それから顔の向きを変えて眉根を寄せた。心底辛い、心配しているという目が、ラステルに抱えられているセリムに向けられた。


「いや、起きたか」


 セリムの体が動くとティダがアシタカに背中を向けた。警戒心のない無防備なに少し驚いた。


 歩き出したティダに向かって、ラステルを横抱きにしたセリムが駆け寄ってくる。シッダルダとアンリが、そして月狼スコール誠狼ウールヴも追いかけてきた。


 セリムは大丈夫なのか?という心配が浮かんだのとほぼ同時に、背中に悪寒おかんを感じた。満面の笑みのセリム。大興奮という様子で背後に大蜂蟲アピスが飛び回ってセリムを追いかけてくる。大蛇蟲アングイス小蛇蟲ココトリス、おそらく子供達。蟲と蛇がセリムを取り囲んでついてくる。怖くはないのに嫌な予感がしてならない。


 勘が悪いので当てにはならないか。


「ティダ!アシタカ!シュナ姫!三つ子だ!君達はテルムとアモレが残したものがまた巡って出来た結晶!三つ子がまた生まれたんだ!新しい世界が待ってる!僕達も参加するんだ!みんなだ!大陸中、手を取り合える!」


 ティダが歩くのを止めた。アシタカも立ち上がってシュナの手を引いてティダの隣まで移動した。


「三つ子?何を見たヴァナルガンド」


 ティダが感情が読めない表情でセリムを見つめた。


「テルムとアモレには三つ子がいたんだ。とても仲が良く、助け合い、素晴らしい祈りを残した。少し見たんだ!大陸中の人が彼らの血脈だ。違う者もいるだろうが二千年も経っているから多いだろう!ああ、ペジテ大工房の民の大半は違うかもしれない。兎に角、テルムとアモレの子は双子じゃなかった。アシタカとシュナとエリニース。エリニースはティダって名前も使った。三つ子だ!」


 セリムがラステルをきつめに抱き寄せて、くるりと体を回転させた。ラステルをシッダルタに渡すと、セリムは月狼スコールの元へと一直線に駆けていった。


月狼スコール君!大狼も昔は人と、人?人と蟲の子と暮らした!月狼スコール君がラステルと仲が良いのもきっとそれだ!僕達に子が生まれたら共に暮らそう!崖の国を気に入ってくれるようにはげむよ!」


 月狼スコールが大きく口を開けてセリムに向かって飛びかかった。どう見ても本気だ。ヒラリと避けたセリムが月狼スコールに抱きつく。


月狼スコール君は王狼ヴィトニルよりも、ふかふかだ。何てふかふかなんだ」


 殺されかけたのに満面の笑みで月狼スコールを撫で回すセリム。澄ました表情で二本の尻尾を大きく揺らす月狼スコール。アシタカは呆気に取られた。


 ラステルが突然高らかに歌い出した。シュナの声とはまた違うが美しい旋律せんりつ。シッダルタが困惑している。大蜂蟲アピスの子がいつの間にか大地に降りてきていて、大蛇蟲アングイス小蛇蟲セルペンスの子達と楽しそうに左右に体を揺らす。


 絵で見たことがある海底の海藻の中のようだ。


「セリム様とラステル、我を失っているようにも見えます。しかしとても嬉しそう。アシタカ様、アモレとは誰だかご存知です?ラステルが最近セリムと話せてなくて色々分からないのよね、と申しておりました。テルムはペジテ大工房の聖人テルムのことですよね」


 シュナがじっとアシタカを見上げた。突然ティダがアシタカとシュナの間に立った。それから肩を抱いてきた。予想外過ぎる行動にアシタカは目を丸めた。反対側でシュナも驚いた顔をしている。


「二千年前の人と蟲の夫婦。理由不明だが夫テルムは十字架にはりつけにされ燃やされた。妻アモレは青紫の炎、おそらく悪魔の炎だな。あれに燃やされた。蟲の女王は蟲と、ヴァナルガンドのような人間と共に毒と炎で殺されたんだよ。盾となって背中のあらゆるものを守ろうとした」


 殺された。


 ティダが険しい表情でセリムとラステルを見据えている。


「人と蟲の夫婦。まるで二人のようだな」


 自分で口にしてみて、全身にゾワリと嫌な予感がした。


「アシタカ、お前の国の大技師教義を作り上げたのはテルムではない。父親の振りをしたアシタカ・サングリアル。死の国より蘇った神の使者と偽った。名を捨ててかたきの国、それもど真ん中に居座った。二千年、二千年だ。許しを選び、されど罪を許さず、大陸覇王を作り上げたんだよ」


 父ヌーフが「響きが良いじゃろ」としか言わないアシタカの名。内側から涙が込み上げてきた。


「物知りね。その顔、ついさっき知ったのかしら?」


 シュナもかなり険しい表情になった。シュナの言葉でアシタカはティダを見た。悔しいと描いてある。それだけではないようにも見えた。


「蛇と蟲の血の記憶の断片だ。三つ子は分からねえ。アシタカ、お前も何か見たはずだ。ヴァナルガンドは長所への嗅覚は優れているが、短所には盲目気味。あいつがのぞいたのと、俺では大きく異なるだろう。飲まれて暴走しているようだから落ち着いたら聞き出してみる」


 ティダの手に力が入った。


「セリム様、時折先程のように語り出したと思うと固く口を結ぶ。アシタカ様、覚えています?流星降り注いだ夜。セリム様は突然ドメキア王国とペジテ大工房の国旗を尋ねてきて、この国がどうおこったかと気にされていた」


 ティダがシュナを探るように覗き込んだ。距離が近い。離れて欲しい。しかし馬鹿力で身動き出来ない。ティダに肩を抱かれるなど嫌なのに何故か離れ難い。


「おいシュナ、何て話した?」


「女神シュナと双子の男神エリニースがアシタバ半島の誕生神と言われている。シュナは終焉の炎から民を守る盾となり、聖騎士エリニースは大蛇の化身でこの地を耕した。セリム様はこう口にした。蟲の女王の血脈はドメキア一族と、大技師一族に別れた。外界の大自然と、内界の超科学がいつか手を握り合うと祈りを込めて。そう言っていました」


 そういうことか。盾になったのは蟲の女王。娘のシュナは生き残りドメキア王族へと続いた。シュナがエリニースと共に生きたのか不明だが、エリニースは蛇一族と連れ添った。大技師一族はアシタカの血筋。シュナとエリニースの兄だか弟。そんなところか?


「アシタカ、シュナ、エリニース。人と蟲の夫婦から生まれた三つ子。セリムが知ったのはその三つ子のことだ。ティダ、僕が見た夢は今と似てる。丘の上で僕達が三人並んでいた」


 何となく目を閉じてみた。ほぼ夢の内容に覚えがない。


 思い出そうとすると熱くて堪らなかった。吐きそうになる。自然と涙がこぼれた。


「おいアシタカ?」


「アシタカ様?」


 親しい二人の声で目を開いた。親しい二人?親しいのはシュナだけだ。アシタカは落胆した。丘には流れ星は落ちてきていない。


ーーすな


ーー許すな


 アシタカはティダの横顔を見上げた。シュナにも目線を向けた。


ーーアシタカとシュナとエリニース。エリニースはティダって名前も使った。


 幸せそうな笑顔のセリムが脳裏をよぎった。


「エリニースはティダって名前も使った。セリムはそう言った。僕達三人は同じ名前なんだ。そして蟲と人の夫婦によって出会い、この地までやってきた。かつて彼等家族が住んだ土地。遠く離れても家族は共にある。それぞれが鮮やかな未来を作ろう。。そう信じて強く生きていこう。憎悪と諦めを決して許すな。僕はそう誓い合った三人の夢を見た」


 ティダがまたセリムとラステルに視線を向けた。シュナも続いた。アシタカも続いた。


わたくし達三人、祖先が同じということですね。セリム様も我がドメキア王族の血を引く。運命的で素敵ですこと。アシタカ様、ティダ。このシュナはセリム様とラステルを悪魔狩りや魔女狩りから遠ざけます。崖の国もです。似たような関係性?笑わせる。必ずあの二人、天寿全うさせます。人類の至宝を飾る紅の宝石。この世で最も美しい女。あはははは!愚民ぐみんは平伏し、星達は救われる。胸がすくわ!」


 高笑いしだしたシュナにアシタカはびっくりした。口にはしないだけで国民への憎悪は消えてないと伝わってくる。シュナと目が合うと悪戯いたずらっぽい笑顔とウインクが飛んできた。


 全身がまた熱い。蟲と蛇の記憶というのは恐ろしい。この熱さは火あぶりにされたテルムの記憶だろう。それなのに不思議と嫌な感じはしなかった。何故だろう?


 悪魔狩りや魔女狩り。得体の知れない嫌な予感の正体はそれだ。


「元より目指すのは覇王。名前負けという言葉があるが、歴史に消え去ったアシタカの名は僕が残そう。聖人テルムと横並びかそれより上ならばこの名に相応しい。セリムとラステルは僕を飾る特大の宝石。いや至宝と紅の宝石を磨く神の夫婦。そういう風に残そう。平和と共存の象徴。僕が偽りの庭を飛び出したように、いつか後世の子孫が鮮やかな未来をつくるきっかけになる」


 ティダが舌打ちした。またティダの手に力が入った。


「好き勝手言いやがって、俺が頂点だ。そしてセリムとラステルは俺が囲っている。シュナ、アシタカ、あの二人の使い方間違い業火へ導けばこの俺が喉元食い千切ってやる。この俺は孤高ロトワの龍皇子らしいから龍王だな。至宝を体に飾る龍王ティダ!大蛇蟲の王バジリスコスの手柄もアシタカ、お前の功績も俺のものにしてやる!ふふっ、ふははははははは!」


 急に機嫌が良くなったティダがアシタカとシュナの肩から腕を離した。それからシュナを抱き上げてアシタカへ渡すように腕を伸ばした。


「この地より、今より時代が変わるとド派手な花火を打ち上げようではないか!アシタカ、お前これからシュナと祝言挙げろ。ドメキア王国神の化身ということにする大蛇蟲の王バジリスコス小蛇蟲の王ココトリスと共に大陸中に見せけろ。聖人テルムの子孫から聖人が生まれたと高らかに宣言!妻は蟲から奇跡を与えられた姫。二大国家の口頭や紙面上の協定では役不足。証人は俺。蛇一族が遣わした使者」


 いきなり何を言い出す。アシタカはとりあえずシュナをうばった。神聖な婚姻を何だと思っている。


 ティダとシュナが政略結婚していたことを思い出した。今、シュナが着ている純白ドレスも婚姻時の衣装だと聞いた。


 胃がムカムカする。この若さで心臓に胃に肺とは、これまでの生活が不健全だったということか?


「必要なら嘘を重ねるのはかまわない。僕に必要なのは圧倒的な権力。強制的に平和を目指させる力。元々聖人一族という肩書きは重かったが、僕は何もかもをとことん利用する。ティダ・ベルセルグ、君には決して手に入らない地位と権力。ふっ、この世は不公平だな」


 ティダが大地を踏みつけ巨大な音を立てた。地面が揺れるのでアシタカは大きく足を開いて踏ん張った。シュナを抱えて転ぶ訳にはいかない。


「この俺の不敗神話を崩した男アシタカ・サングリアル。そうだ、俺には手に入らない。二千年続く大国の御曹司。聖人の子孫。多くの支援者。そこから生まれる巨大権力に武力。そして手に持つ大駒。よって俺はお前の犬となってやろう。言わずもがなえさは矜持の大輪。誰よりも働いてやるから食わせ続けろ」


 嫌味に嫌味が返ってくると思っていたので面食らった。


 ティダが再度足を大地に踏みしめた。先程よりも大きな音が響き渡る。


「この俺から大駒、それも愛娘を奪ったアシタカ・サングリアル。俺はお前を我が妻と唯一無二の親友夫婦のすぐ下に置いた。矜持よりも上だ。俺は優劣つける。俺の矜持よりも上だということを常に忘れるな。転落するような生き様見せてみろ。食い殺さない。何度でも蹴り上げる」


 アシタカはまばたきを繰り返した。黒い瞳から嘘偽りではないと伝わってくる。黒真珠ブラックパールのような美しい目に息を飲んだ。


 湧き上がってきている感情は畏敬いけいだろう。きっとこの感情はそう呼ぶ。体が小刻みに震えた。ティダが地を揺らしたからではない。


 セリムがティダをしたう理由。カール不在の中で最も忠実だというゼロースがシュナの護衛ではなくティダの守護を優先した訳。煽動せんどうで反乱を起こしたのに、反乱軍は煽動せんどうされたことさえ気づいていない節がある。


 三回肩を叩く、たかがそれだけなのに全身に歓喜の震えが走った記憶が蘇った。


 このあらがえない魅力カリスマ


 見下されて嘲笑あざわられているようだったのに、突然真逆の態度。信じようがないのに、信じてしまう。生理的嫌悪など軽く飛び越えて心臓を鷲掴わしづかみにしてくる。


 風になびく髪を搔き上げる。それだけで絵になるような姿。ティダが目が眩むような笑顔を作った。


 このような表情を初めてみた。清々しい笑みなのに艶麗えんれい


 ティダがまた足で音を立てた。一番力強く大地が踏まれたので地震が起きたようになった。ティダに両足を持ち上げられて空高く掲げられた。


「俺は矜持が好きだ。矜持とは信念。誰に批判されても、殺されようとも曲げられない自己信念。俺は優劣つけて頂点から順に守る。いいかアシタカ、俺が駒を使ってではなく直接命賭けて守る者はごくわずか。アシタカ・サングリアル、お前は俺の直下だ。好きに、自由に生きよ!命短かし、されど尊い。酒は飲め。それから絶対に俺を庇うな。愛するものを残して死ぬなよ!」


 ティダが歩き出した。アシタカはシュナを抱きながらなすがまま。


「三度吠える時に理由を告げるのは大狼の最大の敬意也。この敬意、人に対しては初だ。ヴァナルガンドは大狼だからな。ベルセルグ皇国では三という数字は特別で神聖な数。セリムとラステル、フェンリスとアンリエッタ、そしてアシタカとシュナ。丁度三組だ。そういう訳で祝言だ」


 三度吠える時に理由を告げるのは大狼の最大の敬意也。


 全身に鳥肌立った。言葉だけでここまで胸を突き刺してくる。まだ三十年にも満たない人生だが、こんな感情は初めてだ。


「あらお父様、愛娘シュナにはその敬意はありませんの?」


 シュナが頬をふくらませた。わざとらしいが、可愛い表情だ。


「ある訳あるか!この俺を袖にして逃げた自尊心の低さ。女として足らな過ぎる。女は二度と愛さぬと思っていたので心底安堵していたのにアンリに捕まったじゃないか!シュナ、図っただろう。まんまとめられた。お陰で俺は地獄にアンリを連れて行かないとならない。しかし許そう。さすが真贋しんがん持つ女。こんな娘は溺愛できあいし続けないとならないな」


 何を言い出したのかと思ったら、シュナには通じているらしくシュナが愉快ゆかいそうにくすくすと笑い声を立てた。


「あらわたくし、真の愛情を与えられたのですっかり変わりました。淡く、そしてうっかりな恋ではなく本物を見つけましたの。一生あきめずに追い続けます。恐ろしい方なので是非味方して下さい」


 シュナがアシタカの頬をでた。


「そこまでしたう者がいるなら恋より仕事なんて言わないようにしてください。心に決めた方とはルイだろう?君が選んだのなら仕方ないが、あの男は大丈夫か?まあ約束したように、誰よりもこの僕が全身全霊でこの世の誰よりも大切にするのでどんな男だろうと問題無し。いや問題だ。ルイを蹴り上げ続けないとならない。可及的かきゅうてき速やかに育てるならティダ、君だ。僕と共にあの男を蹴ろう」


 シュナににらまれ、おまけに頬をつねられた。


「お前が俺と手を組もうと言うとは信じられんな!ふはははははは!しかもルイ?あんな小物にシュナがれるか。阿呆め」


 ティダが大笑いしだしたので眉間にしわが寄る。なら他に誰がいるというのだ。


「そうですかアシタカ様。このシュナを飾りたくないのでしたら結構です。ルイが似合いというのならば、わたくしはあの男を磨きに磨いて紅の宝石にかすまない王にします。ドメキア王族では身内は三親等まで。そして母上と貴方の父ヌーフ殿は異母兄妹。血の縁はルイの方が近いですもの。ルイは本人も知らないが先代国王、わたくしの祖父の隠し子です。年が近いですが叔父です」


 しかめっ面のシュナの発言にアシタカは手を離しそうになった。家族でもない女性に馴れ馴れしくしていたということだ。公衆の面前で破廉恥はれんちとはティダではなく自分のこと。数々の慎みのない行動に穴があったら入りたくなった。


 シュナはアシタカの勘違いを受け入れてくれていただけ。シュナを抱える腕に力が入った。離すべきなのに離せない。


 一人の人間として惜しみない敬愛を向けてくれている。


 ティダが顔をしかめた。


「女は愛嬌あいきょうだ。牙ではなく爪を使え」


 シュナが唇を尖らせて肩をすくめた。家族ではなく血の縁も薄い遠い親戚と突きつけられて、胸に大穴のような虚無感きょむかんを感じる。


 シュナが切なそうに左腕を上げた。


 月明かりにシュナの指輪が輝いた。


「少々ねました。アシタカ様、このシュナはいつも迷い、悩み、苦しむ。眠れぬ夜も多い。その時、手を中々伸ばせません。人は変わる、変わっていく。だから流星落ちてきた夜、あの日限りの命となりたいとまで思いました。この指輪、母上の形見を加工してもらったものです。決して外しません」


 泣きそうな顔で微笑んだシュナにアシタカは激怒が込み上げてきた。流星落ちてきた夜とは、ティダがシュナの為に命を張った反乱の日だ。


「余裕出来るまで仕事第一とは大嘘か。僕と同じく永劫えいごう働くつもりだな。許さん!そんなことはこの僕が許しません!シュナ、君のような女性は幸福を享受し続けるべきなんだ。ティダ・ベルセルグ!貴様のせいだ!政治駆け引きとはいえ婚姻したなら破棄はきするな!アンリには悪いが、シュナの純情奪って離さない間はその地位捨てさせないからな!」


 ティダに頭突きを食らった。目がチカチカした。


「何がどうなったらそうなる!こっちこそお前のような男の隣に愛娘を置くか!俺とシュナはとっくにたもと分かった。互いの為に偽りの絆消し去り真の絆とちかい立てた。俺はアンリにも真の誓い立てた。絶対に破らん」


 シュナの手がアシタカの額を撫でた。


「コブが出来たらどうするのよ!」


「シュナ、お前もお前だ。欲しいなら欲しいと言え。女は愛嬌あいきょうだと言っただろうが」


 突然ティダがアシタカを持ち上げるのを止めた。それから素早くシュナをうばった。シュナの肩を優しく抱きしめながら背中を向けられた。横顔に一瞬、不敵な笑顔が浮かんび思わず肩を掴もうとした。しかし肘鉄が飛んできたので、アシタカは後退した。


「そこまで欲しいのならば可愛がってやろう。中々そそる声だしな。飾りの正室。真の女は側室。皇室とは昔からそういうものだ。死ぬまで焦がれ続け、三番手に甘んじよ。当然、それなりの誠心は与えよう」


 ティダがシュナの両肩に手を置いた。シュナがチラリとアシタカを切なそうな顔で見た。助けて欲しい、そう聞こえた気がした。


「ティダ止めろ。あまりの仕打ちだ。反撃は本人にしろ。僕に苛立ったなら僕を殴れ」


 当然、というようにティダが拳振り上げた。この男は無抵抗な者を殴らない。案の定胸ぐら掴まれただけだった。


「さすがに腹にえかねるぞ!」


 激怒の顔にアシタカは同じであろう表情を投げた。ティダの腕が誰かに掴まれた。アンリだった。ティダから手を離すとアンリは腰に手を当てた。


「また喧嘩けんか?今そんな場合じゃ……」


 シュナがアンリに抱きついたので、アンリが困惑したようにティダとアシタカを交互に見た。


「大丈夫?二人に何をされたの?」


 シュナが小さく首を横に振った。


「さすがに少々傷つきました。後で聞いてください……」


 シュナが消えそうな声を出した。


「この男が最悪だからだ!」

「この男が最悪だからだ!」


 同時に同じ台詞セリフ


「真似をするな!お前が最悪な男だ!」

「真似をするな!お前が最悪な男だ!」


 また同じ。


「貴様のような男にシュナを渡すか!指一本触れるな。むしろ喋るな。同じ空気を吸うな。貴様の妻だったという黒歴史は灰にしてくれる。シュナの伴侶になるのはシュナをこの世で最も幸福にする男だ」


 ティダはつっかかってこなかった。ジッとアシタカを見据えてくる。


「そんな奴いるのか?」


「当然。僕が大陸中を探す」


 大きな溜め息を吐いて首を横に振った。


「アンリ、俺には判断不能だ。支離滅裂しりめつれつな上に勘違い。そしてこれ」


「アシタカ様、わたくしの気持ちは無視ですか?良い男にわずかに目眩めまいもしましたが、穏やかに紅茶を飲めない男は断固拒否。わたくし、お酒も苦手です。やっと破ってもらった偽りの誓い、戻さないでくださる?ティダも余計な真似はしないで!こじれたじゃない!」


 シュナがティダに向かって仁王立ちした。


「悪かった」


 ティダがシュナの頭へ手を伸ばした。触るなと言ったばかりなのに聞く耳持たずか。アシタカはティダの手を払おうとした。ティダがシュナに伸ばすのと反対側の腕がすぐさま伸びてきて、額を指で弾かれた。


「っ痛!頭突きの次はこれ。暴力ばかりの最悪な男め。アンリの為に改めよ。己に相応しい言動を心掛けよティダ・ベルセルグ!」


 アンリがアシタカをにらんだ。


「アシタカがティダのシュナへの謝罪となぐさめを暴力で止めようとしたからでしょう?とんでもない殺気を出して何にそんなに怒っている訳?」


 何にそんなに怒っている?ムカムカしているのは胃の調子が悪いから。他には、と考えようとしたがシュナの様子があまりに悲しげで頭が上手く働かなかった。


「アシタカ様……。わたくしも謝ります。カールが居なくなってからというもの益々眠れません。いつも二人で眠りに落ちていたのに、カールと別れてしまいずっと一人の夜です。最近はラステルやアンリが居てくれましたが、離れた地へいってしまう。不安に押しつぶされそうで、優しく手をつないで欲しいが故にアシタカ様の好意に甘えてしまいました。すみません……」


 シュナはうつむいて自分の両手を組んで強く握り握った。


「ふむ。そんなに眠れないのならば添い寝くらいしてやれば良かったか。政治駆け引きの婚姻。正室は単なる飾り。互いに側室を自由に作るかと言ったが、気にしてやればよかったな」


 アンリが目を大きく見開いてティダを見上げた。


「いえティダ。武力手にする為に乗り込んできたと疑うわたくしに真心しか与えなかった。感謝しています。アシタカ様、血の縁薄いと知られると、大衆の前で人目はばからずにわたくしを支えてくれるアシタカ様に泥を塗ります。決して口外しません。もう少し、強くなれるまで助けてくださいますか?」


 シュナはうつむいたままだった。アシタカは片膝ついて下から顔を覗き込んだ。それからシュナの手をてのひらで包んだ。シュナは泣き笑いしている。涙が落ちる前に指ですくった。


「ええ勿論もちろんです。僕は貴方の寄る辺なさが耐えられない程辛い……。シュナ、同じ道を歩んでくれる君は僕がずっと欲しかったものだ。だから僕が守ります。君が楽になれるように、一つでも多くの幸福を与えようとする君の為に今までよりも身を粉にして働く。平穏も休憩もなくて構わない。その時間分、その労力分、与えたい。眠れぬ夜に、シュナは僕の心配までしていた。大自然のせいか少々健康に不安を感じているが短時間睡眠は特技ですし、僕は何でも持っている。欲しいものがあればほとんど与えられる」


 シュナが微笑んでくれた。くもりのない親愛の眼差しに胸が温まる。


わたくしも同じ気持ちですアシタカ様。わたくし、欲しいものはこの手です。辛い時に支えてくれるこの手があれば強く生きていけます。疑心に対して真心しか与えなかった盟友の為に、ティダが絶対に失いたくないという者を守る為に、わたくしの人生の恩人達の為に、強く強く生きたいのです。どうか助けてください。アシタカ様はわたくしが支えます。闇夜を照らす星のようになりたい。願い叶えて人を救う流星は消えても願いと祈りの中で生き続けます。そんな風に死にたいのです」


 アシタカはシュナの手を握ったまま立ち上がった。可憐に笑うシュナにアシタカにも笑みが浮かんだ。


「アピスの子と同じようなことを。おいシュナ、目指すなら死んでも消えない暗闇照らす巨大な星を目指せ。至宝を飾る紅の宝石。実に良いではないか。聖人テルムは二千年も輝きを放つ。いや、三つ子か。ならば三夫婦は何千年この世を照らすかね?ヴァナルガンド!ラステル!来い!」


 三夫婦。まだアシタカとシュナに戦略結婚をさせる気らしい。


 駆け回るセリムと、シッダルタの腕の中で歌うラステルがこちらに向かってきた。ティダの呼びかけ一つで一目散にこちらへ走ってくる。特にラステル。シッダルタの腕から飛び降りたラステルは大人しそうな見かけとは違って、かなり足が速い。みるみる近寄ってきた。


ではなく、必ずだ。あの二人を誰かが燃やせばこの大陸は業火ごうかに包まれるだろう。故に守り通せば聖火が燃え盛る。俺が信じるのは己のみ。己が選んだものは決して裏切らない。大狼の矜持は次へと続く命の灯火ともしび帝狼フェンリス王狼ヴィトニル破壊ヴァナルガンド、三頭大狼、名は龍王。必ずや矜持の大輪咲かす」


 ティダがアンリの腰を抱いてシュナとアシタカに向き合った。燃え上がるような闘志たぎる生き生きとした瞳。この男は簒奪さんだつと言いながら、威風堂々と頂点に立つ。望もうと、望まないと、そういう器を持っている。


 自分でも、ティダでもかまわない。喉から手が出るほど欲しい世界が近づいている。人の道外れれば時代は逆行し、混沌と破壊はかいが訪れるだろう。ノアグレス平野の大混乱は、その縮図。


「憎悪と諦めを許すな。この言葉、とても気に入った。争わないようにと考えるのが何が悪い。血が流れないようにと願う事が悪い筈がない。だから僕は自分の信念に権力を振りかざす。道を外れれば絶対に止めてくれる相手がいるから突き進む。決して裏切らない絶対的な支援者がいるから走り続ける。必ずやより良い世界。明るい希望の世界。いやこれまで生きてきた誰も見たことがないような鮮やかな世界を作る」


 正しい者こそ、優しく者こそ、救われ幸福になる。仕組みが足りないから作り続けるだけだ。誤った炎を胸に灯す者への抑止力。必要なものを増やす。


 聖人テルムは虚像だった。勘は悪いが胸の内から直接伝わってくる。三人で作り上げた偶像。伝承には偽りと欺瞞ぎまんが隠されている。両親を殺されたのに、許しを選んだ三つ子は憎悪から人々の目をあざむき逸らさせ続けている。


ーー蟲愛づる姫の瞳は深紅に染まり蟲遣わす。王は裁きを与え大地を真紅で埋める。テルムは若草の祈り歌を捧げよ。


 セリムとラステル。かつて蟲を愛した夫婦の再来。あらゆる命を愛する夫婦。二人が憎しみと悲しみに飲み込まれるほどに命の尊厳が踏みにじられた時、龍王ティダ覇王アシタカも黙っていないだろう。蟲の王レークス大蛇蟲の王バジリスコス小蛇蟲の王ココトリスもいる。他にもいるかもしれない。


 蛇一族と蟲一族に影響受けるティダとアシタカは憎悪に抵抗しきれないかもしれない。


「アシタカ様、、裏切りには反目。死ねない劇薬で猛毒を全身に回らせましょう。毒蛇の牙で噛みつきます。新たな武器は大鷲おおわしの爪。毒よりも効く、鋭い真心。毒よりも恐ろしいです。戦場では役立たずでもその他の場では誰よりも役に立てます。このシュナに無防備に背中を預けてください。お二人の荷が減るように、そして二人が愛する者を守ってくれる者を必ずやわたくしが増やします。には特大の宝石、汚れない白真珠ホワイトパールにすぐ流星になろうとする騎士達を飾りました。どうかご自愛ください。アシタカ様にはわたくしがいますからね」


 シュナがさあ手を握って欲しいというように両手を優雅な所作で挙げた。ティダがシュナの手を取った。


「運命ではなく己で選んだ。俺の化身、王たる大狼ヴィトニルがこの地の守護神である。我が二人の盟友を必ず守る」


 いきなり背中側から大咆哮が起きた。合計三度。王狼ヴィトニルがアシタカとシュナの体を囲った。ティダがシュナの左手の手の甲に唇寄せる。ティダがシュナの薬指の指輪に軽くキスすると、アンリがティダの腕を引っ張った。それからいきなりティダに抱きついてキスした。


 淑女しゅくじょのアンリは消えたらしい。しかし嫌悪よりも祝福を感じた。


「誓ったからどこまでついて行く。私、貴方の何もかも全部を貰うわ。それが地獄でも不幸でも何でも欲しいの。私が殺されたらこの二人の生き様と矜持を捧げて。その先に私の命への見返りがある。それを忘れないで。絶対に忘れないで」


 ティダが一瞬ひるんだ。それからアンリの頬にそっと手を当てた。驚くべきことにティダの手は微かに震えていた。


「君が死ねばソアレと並ぶ太陽か。二度と味わいたくないのに手酷い女だ。しかし許そう。本能にはあらがえない」


「全然違うわ。そして貴方を照らす太陽のソアレさんの気持も読み間違えている。ティダならいつかきっと気づくわ。気づかせてくれる人がいる」


 アンリがアシタカを見据えた。かつてアシタカを見てくれた目とはあまりにも違う。


「アンリ、見る相手が違いますよ。わたくしとラステルが居ます」


「分かってるわよシュナ。アシタカ、逃げ回って隠れてないで自分と向き合いなさい。そういう意味よ」


 アンリがアシタカの胸に拳を当てた。トントントンと三回軽く殴られた。アンリがティダを押してアシタカとシュナから少し離れた。


「我が妻は聡い女で助かるな。来たなラステル、この二人を見よ」


 距離が離れていたせいか、セリムよりもラステルが早く到着した。ラステルがシュナとアシタカを見た。シュナが何故か左手の甲をラステルに向けた。


 母親の形見を見せたいのだろう。


「まあ何て素晴らしいのかしら!アンリ、お祝いよ!祝わないとならないわ!」


 ラステルが心底嬉しいというような愛くるしい笑みを浮かべた。それからシュナの左手を握り、次はアンリに抱きついた。


「そうねラステル。盛大に祝いましょう」


 アンリがラステルの髪を撫でた。遅れてセリムが着いてとなりに並んだ。シッダルタを肩車していたのでギョッとした。


「ヴァナルガンド。少し遅かったな。二人が誓い合うのを見れなくて残念だろうが、俺と共に祝いの先陣切ろう」


 セリムがシッダルタを下ろしてアシタカを見た。それからシュナに視線を移した。ラステルがセリムの腕に抱きついて、楽しそうに体を左右に揺らす。大蜂蟲アピスの子の動作とそっくりだ。


「セリム様。ラステル。支え合うのが自然だと思ってもらえるようにしようと思いまして。都合よく、アシタカ様もこのシュナも生涯伴侶など持てない程の仕事第一主義。奇跡ばかり起こす美しい姫シュナを妻に持つ聖人の再来アシタカ様。この肩書きは大変有益です」


 ラステルが明らかにがっかりした顔になった。そんな顔をされても身内とは結婚など出来ない。


 身内?血の縁薄いと言われたのを思い出して混乱した。何故ラステルは残念そうなのだろう。


「シュナ、君まで……」


 シュナはアシタカに向き合わずに隣に並んだ。シュナの横顔は涼しく、別段何も気にしないというように澄ましている。


「これで三夫婦、三人の夫に三人の妻。蟲の民の国始祖も三人。王の中の王である大狼も三頭。至宝と紅の宝石に白真珠で三種の神器。目的の為ならば手段は選びませんよ。三という数字は神聖だそうですセリム様」


 シュナの唇が妖艶ようえんな笑みを作った。ティダがシュナを睨んだが、アンリがシュナにはち切れんばかりの笑顔とウインクを投げた。シュナがアンリに同じものを返した。ティダが仕方がないという諦め顔になった。


「三は神聖な数……」


「何でも三つそろえないとなりません。嘘をつき続ければ本物が生まれるかもしれません。二千年前の嘘は尊きものだったのですもの」


 迷いないという力強さの裏にある、シュナの寄る辺なさをアシタカは知っている。


ーーカールと別れてしまいずっと一人の夜です。最近はラステルやアンリが居てくれましたが、離れた地へいってしまう。不安に押し潰つぶされそうで、優しく手を繋つないで欲しいが故にアシタカ様の好意に甘えてしまいました


ーー大衆の前で人目はばからずにわたくしを支えてくれるアシタカ様に泥を塗ります


「シュナ、随分遠回しな嘆願たんがんだな。もっと簡潔明瞭かんけつめいりょうでないと困る。他の者には無理でも僕には常に素直に頼るといい。支え合うのが自然なように、ではなく支えてもらうのが自然なように。僕の男としての名誉を守る為、か。また貴方は自分のことよりも他人のことを。しかし大丈夫です。僕がきっと変えます」


 シュナが突然アシタカに抱きついた。


「ええアシタカ様。一人でも眠れるようになるまでどうか助けて下さい。代わりに隣でうんと働きます。時は金なりと申しますので参りましょう」


 また息苦しかった。帰国したら即精密検査。長生きしないと、はじめた仕事が終わらない。アシタカはシュナを抱き上げた。


「祭り上げろティダ・ベルセルグ。この地は終焉しゅうえんと再生の聖地だった。埋もれたものを掘り起こす。アシタカ・サングリアル。ペジテ大工房の罪と罰をその身に宿して、名も人生も捨てた我が祖先。同じ名をかんするこの僕が呼び覚ます!」


 蟲の民は絶滅した。蟲の女王は夫共々虐殺ぎゃくさつされた。それが幼き頃からアシタカの知りたかった真実。


 最悪の結果。


 しかし伝承には続きがあった。誰にも知られずに脈々と受け継がれていた物語。


「主よ、仰せのままに。私ティダ・ベルセルグは忠実な大狼です。えさがある限りは満腹なので何も食べれません。あまりにも甘美な食事を与えられば他には何も口に出来なくなりそうです」


 したり顔のティダがシュナを抱くアシタカごと王狼ヴィトニルに乗せてくれた。結局掌の上で転がされているが、仕方ない。持って生まれた能力が違い過ぎる。


「ヴァナルガンド、二人の兄の生き様学び続けよ。誰よりも見晴らしの良い誉れを見せてやる。学習能力の高いヴァナルガンドならば死ぬときには三人横並びとなれるだろう。兄が誇り失いそうな時は殴れ。王狼ヴィトニルに無防備な背中を預けられたくばついてこい!」


 ティダが外套マントを翻してアンリを連れて歩き始めた。


「なんてことだ。僕だけ一人後ろだなんて大恥……。オルゴーはアシタカとエリニースの大親友にして横並びの偉大な男であったのに……」


 何の話だ?


 わなわなと震え出したセリムが胸を張って、ラステルを連れて歩き出した。それからティダの真横に並んだ。シッダルタが慌てて追いかけてく。


 猛風が吹き荒れセリムを包んだ。正確にはセリムとティダ。二人を取り巻いていく異種生物。大蜂蟲アピスの大群、大蛇蟲アングイス小蛇蟲セルペンス。そして二人の脇、護衛のように外側に並んだ大狼。ティダが誠狼ウールヴを内側にさり気なく追いやると、セリムが真似して月狼スコールを守れる位置へ誘導した。


 ティダが、追いついたシッダルタを自分の場所に招いた。それから意気揚々と一人だけ前へ進み出す。


 ティダの左右に大蛇蟲の王バジリスコス小蛇蟲の王ココトリスが並んだ。二匹の巨大な蛇がまるで従者のように見える程、ティダの背中は大きく見えた。

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