蛇を睨んだ大狼
完全に固く閉ざされているヴァナルガンド。本人ではなく別の者が関与している。
そして突如現れた知らぬ扉。一瞬だったので潜入しそびれた。バジリスコス、ココトリス。名と声は覚えた。今まで読んだ書物で蛇神話のバジリスクとコカトリスという名を見た記憶がある。大蛇と小蛇が海を統べているという子供向けのおとぎ話だと頭に叩き込まなかった。ドメキア王国が「毒蛇の巣」と呼ばれる由縁、蛇の由来が蛇神話関連なのかもしれない。始祖の双子神のうち男神が蛇の姿をしていたというのは実話なのかもしれない。
何が起ころうとしている?
「ティダ様、本当にあれの前に並ぶんです?」
飛行船を操縦するベルマーレの腕が微かに震えている。革命でも不安作戦しか
「まあな。
ティダの隣に控えるビアーの肩を叩いた。それからバースに向き合う。
「バース、この船とベルセルグ皇国兵はお前に頼む。シッダルタ不在でもまとめてくれていたからだ。シッダルタの次の器の選抜も的確。ビアー、ゼロースもだが良い上官に恵まれている。とっとと俺の真横まで来いよ」
紅旗の騎馬隊と親衛騎士団の騎士達は重圧かける程闘志に燃える者が多い。第四軍師団長の方が余程出来が悪いとまで思わせる。ビアーが大張り切りという様子で「御意」と操舵室から出て行った。シュナを最初に気に入った次に、そこそこ手を貸すかとなったのもこのシュナの忠臣の二大騎士団の存在。
「バース。どうやって育てたんだか、と悔しくなる。倍まではいかないがその歳までに俺はここまでの駒を揃えられるかね。生きてる間に語ってもらうからな。そういや殴って悪かったな。まあ、お前は身辺
バースが目を丸めた。それから子を見るような目つきで微笑した。自然と口が曲がる。
「光栄です。私は今の貴方の年の時なんて全然でしたよ。時間や経験はとても大切なものです。それから我が王にとってのヴィトニル様。あのような者がもう何人かいるだけで大きく違うでしょう。この騎士団、先に死んでいった盟友が残したものも多いです」
バースが遠い目をした。想いを
「そうか。ならばやはり俺は大狼にまでしたヴァナルガンドを蟲から取り返す。あれは俺のだ。あとゼロースか。俺はあいつが気に入ったから連れ歩く。
またバースが目を丸めた。さっきよりも驚きが大きい。
「
バースが歯を見せて笑った。ティダは肩を
「ヴィトニルにフルボッコにされたから改めた。俺としては最悪最低な生き方になるだろう。地獄だ。まあ妙なことに妻が付いてくるというので何とか歩くさ」
バースは理解不能というように眉根を寄せた。
「地獄?」
「右を見ても死体。左を見ても死体。そこに俺の身内が転がる。俺が育て、大事にした奴が転がっていく。これぞ地獄だろ。俺の手足は合計四本。一本は蟲のせいで調子が悪い。目と耳は二つ。鼻は一つ。ふんっ、守りきれるか」
抑えようとしても頬が引きつる。
「そうですか。ではこのバース、なるだけ自分の身は自分で守れるように若きを心身共に
着いて行く。この目が嫌だ。どっかに去っていって欲しい。意識してないと、何故かどんどんこういう男が周りに増えていく。素直に嫌だという顔をすると、バースは悲しそうに笑ってくれた。少し胸がすいた。このように心配されることなど、今までなら
「まあ命短し、されど尊い。
バースが悩んだように顔をしかめたから口を開いた。
「ハイエナから生まれた犬皇子ですね」
不敗神話の方ではなかった。
「そうだ。俺は手段を選ばねえ。足りないものは他所から
「仰せのままに。我が王よ」
バースの無表情からは、感情がいまいち読み取れなかった。自ら選んだので刺されても文句は言わない。ティダはバースの肩を軽く三回叩いてから、腕を離した。
人の気配がかなりしたので振り返った。あっという間に集まったものだ。ティダは操舵席にもたれかかった。
「ベルマーレ、今お前は俺の背中だ。この意味分かるな?剣技でいえばビアーより上。お前の
ベルマーレから返事はなかった。水の匂いがしたので、感極まって泣きそうなのだろう。この感激屋なのが全くもって気に入らない。しかし他は
ビアーを先頭に騎士達が並んだ。ベルセルグ皇国兵もきちんと混じっている。ビアーに目で良くやったと伝えた。無表情だが、唇の端がピクピクとしているのでこちらも嬉しいのだろう。どいつもこいつも、もう少し感情を隠す
不在者は操縦関連だろう。ビアーに伝達させ、ベルセルグ皇国兵にはバースからも二重に話させる。
「さすが素早い。大体全員揃ったな。迷わぬように状況提示しておく。グスタフが蟲森で蟲の民狩りをして
もたれるのをやめて直立した。間違えればこの中の誰かが死ぬ。ドメキア王国
概要を説明してあるバースは黙っている。他も同様。信じたらとことん付いてくるという潔さ、逆を言えば盲目。ティダはため息を吐いた。何か言え。
「こんな訳が分からない状況、何も聞かないとはお前達は阿呆か。生き残る為に最善を尽くすのを
即座にビアーが剣を天井高く掲げた。
「阿呆ではありません。何度、命を救っていただいたのか。信頼すれば背を無防備に預ける。それが紅旗の真の騎士。私は私の矜持に従います。騎士たるもの命を盾にするのに、主は選びます」
ティダは鼻を鳴らした。
「男たるもの自らと囲う者、弱きの為に死ね。しかし死ねば弱きも死ぬ。だから這いつくばっても死ぬな。だから人など嫌なんだ。しかし許そう。俺の背中がみっともないからだ。勝算なしの作戦ばかりに付き合わせる俺のせいだ。さて、蟲の王と交渉したヴァナルガンドは人も蟲もどちらも好きだ。色々思うところがあるらしい。今回の件、恩を仇で返したと、人を裁くと怒っている。本人に聞いてないから本心は分からん」
ベルセルグ皇国兵から動揺が漏れた。騎士団は冷静。優劣を決める差が出たかと、ティダは全員を見渡した。顔色見ても、国で分けても良いだろう。
「育ちが違います。我が王は内に入れるのも捨てるのも判断が早過ぎです。説明不足なだけです」
バースに小声で告げられてティダは肩を
ティダは軽く髪を
「ヴァナルガンドを信じないと、この世の何も信じられんぞ。蟲を全面的に肯定するなんざ大陸中探してもいない」
ヴァナルガンドへの不信感が消えない者は誰かとざっと眺める。ヴァナルガンドを信じないのにティダは信じるという様子の者。ちらほらいる。頭が痛くなる。ここまで言ってダメなら船から追い出すか。人を見る目も実はないのかもしれない。
「このバース、ヴァル殿は西で争い起きれば自身の家族に被害が及ぶというだけで、単身旅に出たと聞いています。我等をノアグレス平野での惨劇から救い出し、無血革命の立役者でもある。アシタカ様に助言し、ベルセルグ皇国の奴隷兵解放にも噛んでいると聞きました。
不審そうな目の者の顔付きが少し変わった。説明不足か。何をどこまで語れば良いのかは判断し難い。そこまで言わないとならないという時点で気に食わない。バースに苦笑いを浮かべられた。ティダが間違いということだ。
「人を裁くと言ってもヴァナルガンドは争いが相当嫌いだ。アシタカがドメキア王国に要求したような回答を求めている。というか、あの案はそもそもがヴァナルガンドの案だ。アシタカは大陸和平などという大望叶えに奮い立った。元々胸に大志を抱いていてもアシタカは自己不信の塊で実行に移せるような男ではなかった。俺が蟲を使って第二軍を
ヴァナルガンドを不審者扱いしている気配の者を順番に見据えてから、ベルマーレが座る操舵席の背もたれをへし折った。場の空気が凍りついたが、無視した。
「ドメキア王国としての交渉はアシタカとシュナがいれば良いかと俺は部下だけ連れて逃げようとした。俺は個別にヴァナルガンドや蟲と交渉するつもりだった。この国には駒を置いたから、俺ではなく下の仕事だ。しかし至宝アシタカにしてやられた。俺にも手伝わせたいと捕まった。それでお前達を連れてきた。身内が知らぬ間に死ぬなど不本意だからだ。この飛行船にいる者及び大狼に託した妻と友は俺が死なせん。しかし優劣というものがある。俺は器小さく権力も小さい。背負うにも守るにも全力尽くしても死ぬ者が出るなら、俺は俺の好みで差をつける」
ティダは兵士達の間を歩いた。刺すなら刺せ。返り討ちにしてやる。
「妻、大狼、そして友ヴァナルガンドと妻ラステル。次は愛娘シュナ。その次はムカつくが劇薬至宝。それから俺の矜持。それからまあ幾つかある。それが上だ。ここにいる者はもっと下。しかしそこらの人間とは別格。だからやれることはしてやる。しかし俺が上に決めてる者を刺したら捨てる。恨むなら俺の好き嫌いと、俺に好かれない不運を恨め。故に逃げたいなら逃げろ。刺したいなら刺せ。罵倒し、罵り、歯向かってこい。俺はそんなことに頓着しない。俺が選んだ。俺に対することなら何をしても許す。俺の身の内に手を出すと容赦しない。お前らに誰かが何かされてもそうだ。それを覚えておけ」
誰も何も言わない。何か言え!死ねと言われて黙っているとは家畜だ。こんな奴ら抱えるとはまた気が狂った。だから人里など嫌だ。
「蟲の大群の二列。うち一列を俺達が任された。俺はヴァナルガンドより学び蟲と会話する。黙って後ろで守られてろ。それが嫌なら逃げろ。逃亡も生存本能だ。俺の邪魔をするなよ。何が邪魔か分からないなら聞け。きちんと声を出せ。全く、家畜のような阿呆共め。いいか、騎士の精鋭は正真正銘俺の身内。しかしベルセルグの奴隷よ、お前らなんざ俺は興味ねえ。シッダルタがいるから
元の位置まで戻ると、折れ曲がった金属製の操舵席が目障りだったので踏んで折った。こんな明け透けなのは最悪だ。顔色を変えない者は少ない。これでより優劣つけやすい。
「奥方様達と大狼様達が不在なのはどうしてですか?それからゼロース様もいません。いざという時の逃亡関連を任せたのでしょうか?奥方様を一番安全な場所に残してこられると思いますので、このビアーそうだと考えています」
ビアーが無表情で口を開いた。ビアーしか声を上げない。こいつは不出来だったのに中々よく育ったものだ。苛立ちが少し減った。
逆に背中に怒りを発した。ティダはベルマーレの髪を軽く引っ張った。期待込めたのに、全然変わらないとは期待外れにも程がある。伝わったか知らないがベルマーレの髪から手を離した。あれこれ当たり前のことを言葉にするなど面倒でならない。
「ヴィトニル達には後方二列目を任せた。必要だがら不本意ながら妻を向こうにやった。俺の妻は守られたくない、前線に立ちたいという困った
苛々してきて怒声が出た。その時、気を張り巡らせていたところに、いきなりヴァナルガンドの扉が開け放たれた。
〈蛇の子?死ぬかもってアンリさんはどうなってる?アングイスとセルペンスの子よ、遊ぶと騒ぐのを止めて少し話をしてくれないか?〉
--死ぬかもってアンリさんはどうなってる?
扉は一瞬だった。慌てて拒否したというようにブツリと途切れた伝心の輪。ヴァナルガンドの意志ではなさそう。誰かが何か噛んでる。バジリスコスとココトリスとかいう奴だろう。
--死ぬかもってアンリさんはどうなってる?
大狼三頭は完全拒否していて、何も状況が掴めない。答えは明白。絶対にアンリに何かあった。心臓を
「作戦変更だ。俺はバジリスコス、ココトリス、及びその下のアングイスとセルペンスとかいう奴らと話す。ドメキア王国も蟲も知らん。ヴァナルガンドめ、何か知っていそうだから、蟲との交渉など捨てさせてやる。誰もついてこなくて構わん。見知らぬ生物が俺の一番に手を出したようなのでその件が最優先。内容次第で
軽く手を振って見張り台へ続く梯子を上った。バジリスコスとココトリスとかいう得体知れぬ
ぶっ
バースとビアーも
あまりにも無責任だと思ったので、それではアンリにも逃げられるのでティダは手足を止めた。それからバースとビアーを見た。
「次から次へと問題ばかりで訳が分からん。アンリに手を出した奴がいるので潰す。とりあえず取りいる。犬の振りしたハイエナが大狼とは不運だったと死ぬ間際に絶望させてやる。ビアーとバース両名は俺の代理。何もかも任せた。全員好きに生きよ。命は短い。自由に好きに生きろ。気に入っている矜持があるから、俺の身内の身内だから囲ってやってただけだ。蟲を鎮めた騎士団という誉れ、子々孫々残る神話になれるのを放棄しようが死のうが知らん。しかしこの俺が選んだんだから、俺が守り通してきた紅の宝石と共に至宝アシタカの周りに飾られとけ!永劫語り継がれ、敬われ、名が残る!何が大事か己で決めろ!」
見張り台への扉を引き剥がして、床に投げ捨てた。優劣つけた結果捨てるので振り返らなかった。こんな風だからアシタカと違って権力が無いのだと思い知らされる。生き方を変えるとは難し過ぎる。
簡単には人里でなど生きれない。
ティダは見張り台へと飛び出した。ガビから望遠鏡を奪い取り地上を見渡す。邪魔なのでガビを操舵室に突き落とした。
数列横並びの
どう考えてもヴァナルガンドだ。
最終境界線に居るのかと思ったら違うらしい。一人だけなのでラステルとシッダルタは不在の様子。人影の周りに
〈
背中の子蟲アピを服から引き剥がした。こいつを殺すぞと訴える。
〈子蟲殺しは最も重い!〉
〈なら俺に従え〉
動く気配なし。どう手篭めにするか。
服越しならまだしも素手で子蟲アピを触ると、全身に鳥肌立って、冷汗が止まらない。何で拒絶したい蟲なんぞに好かれたのか意味不明。遊べと
〈ヘトムはセリムと遊ぶ。セリムはおこりんぼ止める。
楽しそうな子蟲アピにティダは思いっきり舌打ちした。殺気無視して呑気な子供だ。こんなの殺したらそれこそ万死。
〈俺はお前を殺すつもりだぞ〉
〈嘘だ!嘘だ!嘘だ!ヘトムはセリムと遊ぶ。ヘトムはやっぱりバヘトム!嘘つき!〉
惜しみない信頼にほくそ笑んだ。
これは使える。出来るか?と自己不信ながらも伝心を二手に分けた。子蟲には親しげに「遊ぼう」で
ヴァナルガンドは他者の領域にズカズカと君臨しているらしい。
〈
バジリスコスとココトリスとかいう奴の気配は相変わらずしない。
この高度なら着地には十分。ティダは
いい具合に地面が陥没した。
〈子蟲達よ。花火になりたいのだろう?花火というのは筒から打ち上がる。この穴は筒のようだ。楽しいことをしようではないか!〉
かなり遠い位置にヴァナルガンドがいる。話すものか、侵入させるかと伝心の扉を固く閉ざす。鍛錬してないヴァナルガンドには何も出来ないようだ。圧迫感が全くしない。
何も疑わない子蟲達がこちらへと楽しそうに飛んできた。よくよく見ると、後ろの地面に何かがいる。子蟲についてくる。
〈子蟲よ、あの地にいるのは?〉
蛇だ。蛇の群れ。鉛色で
〈アングイスとセルペンスの子。海から遊びに来たって。セリムが蛇の子になったから海から遊びにきた。
海からきた?海蛇なのか?
セリムが蛇の子になった。
本当に訳が分からない状況だ。蛇の子の親玉がバジリスコスとココトリスか?で、何かあってアンリに手を出した。
セリムがいるから蟲と蛇が兄弟とはとんでもない発言。
ティダは一旦陥没した地面を見下ろした。この穴に子蟲も蛇の子とやらも集めて人質にする。
〈ふむ。俺にはさっぱり分からん。ヴァナルガンドが蛇の子になった?〉
わらわらと子蟲が集まってきて、蛇達もついてきている。次々と穴へと降りていく。可哀想なくらい一途。
〈俺に手を貸さないとどうなる?〉
〈そんなことしないと知っている〉
〈さて
今度は強めに地面を蹴って土を多く落とした。
〈飛ぶのが上手くて避けるのが上手いな。
子蟲が「もっと」とはしゃいだ。子供というより赤ん坊のようだ。
純情無垢な子蟲殺しをするつもりは毛頭ないが、それを絶対に気取られてはいけない。駒が動かない。
〈この信頼討つのは辛いので、殺すなら即殺しよう。
〈バムバムも蛇の子になった。あと孤高ロトワ龍の皇子の妃もなったって。
子蟲と蛇の群れに囲まれてティダは放心した。意味不明で理解しきれない。
しかし一点、確認出来た。蛇がアンリに手を出した。蛇の誰かが毒を盛った。
あまりの激怒で吠えそうになったその時、地面が盛り上がった。割れた大地から巨大な蛇と、それよりは遥かに小さい蛇が現れた。小さいといっても三十メートルはありそう。巨大蛇はその倍かそれ以上。
角が背中にいくつも生えた巨大蛇。それから頭部が
〈孤高ロトワ龍の皇子。妃に友好を示し我等の身内にした。会談を求めている。しかし我等の子に何をしている?〉
伝心術を使えるのか。話が早い。ティダは巨大蛇に飛びかかった。背に乗って駆け上がる。
〈おい。何をする?〉
身を
穴からかなり離しておいたので、穴の内部にいる子蟲と子蛇は問題ないだろう。
〈バジリスコス⁈〉
小さい方の蛇が叫んだ。巨大蛇がバジリスコスで
〈孤高ロトワ龍の皇子⁈そんな肩書き知らん!我が名は
バジリスコスがゆっくりと起き上がった。青い体液があちこちから流れている。蟲の体液とは色が違う。別の生物か?
〈バジリスコス落ち着け!〉
シュルシュルとココトリスがバジリスコスに近寄った。
〈
デタラメ告げたのに穴から次々と
〈楽しそうな
〈貴様、何ていう卑怯者也〉
無視して全力で走って穴まで戻った。
〈卑怯者?たかが人間一匹に巨大蛇二匹。妻を人質にとっている。俺から見たらお前らこそが卑怯者だ。この通り小さな体なので知恵を絞る。でないと滅ぼされる。戦に必要なのは貪欲な勝利への執念。俺には俺以外の命が乗る。何でもするさ〉
荒々しい息を吐くバジリスコスの前にココトリスが移動した。
〈たかが人間一匹?孤高ロトワ龍の皇子ティダよ、どう見ても人間ではない。人間がバジリスコスを投げ飛ばすなど無理だ。貴方の妃を人質になどしていない。蛇の子は我らの宝。蛇の子とした。友好の提示である〉
孤高ロトワ龍の皇子。これで二度目だ。何か勘違いされているか、ベルセルグ皇国の異名か。何かあって利用されたいと思われたらしい。ティダは返答しなかった。立場的に優位なのは自分。
〈
ティダは即座に子蟲達の意識から離れた。アングイスとセルペンスの子とは阻害強く話が出来ない。
〈バジリスコスよ。この意味分かるな?手打ちにしないなら俺は容赦しない。手を組みたいから我が妃に牙を剥いたというなら、手打ちにしろ。蛇の子というのに敬意を示すべきだと俺の勘が言っている。俺はこの穴を埋めたい程怒っている。それほど妃が大切だ。しかしそれでも許す。我が妃に蛇の子という特別そうな地位を与えた上で会談を要求した相手には一旦敬意を示すべきだからだ。話くらいする。バジリスコスよ、ココトリスとやらの進言通り怒りをおさめよ〉
ティダは思いっきりバジリスコスに微笑みかけた。バジリスコスが口を閉じた。真っ赤な疑心の瞳が青く変色した。この目の変色は蟲の仲間か?バジリスコスの瞳から疑心は消えてない。
〈バジリスコスもこのココトリスも争うつもりはない。貴方の妃、蛇の子になれると見極めたつもりが爪が甘く辛い思いをさせた。すまない。謝罪が遅れたことも謝ろう。しかし今はとても元気である。心配なら連れてこよう〉
ココトリスの方が話が通じるのかとティダは首を横に振った。それから軽く会釈した。
〈誰にでも過ちはある。俺も怒りで判断を間違えた。いきなり襲いかかって申し訳ありませんでした〉
ティダは胡座をかいて頭を地面につけるくらい下げた。バジリスコスから殺気が消えてもそのまま頭を下げておいた。
〈分かった。手打ちにしよう〉
バジリスコスが頭部を下げた。中々話が通じそうだ。あと
「ティダ!何をしている⁈」
走って来ているなと思ったが、やはり向かってきている。ヴァナルガンドが前までやってくるのを待った。到着したヴァナルガンドが息を切らしながらもう一度「何をしている」と問いかけてきた。
「何を?突然色々あって混乱している。ヴァナルガンド何もかも許すがこれは何なんだ?何が起こってる⁈俺のアンリに手を出させたのなら、それなりの代償払ってもらうぞ?蟲と人との案件はどうした。蛇と何している?俺はこれからこの蛇達バジリスコスとココトリスと会談する」
内容も要求不明。ヴァナルガンドも途方に暮れたような様子なので何も知らないのだろう。
ティダはもう一度バジリスコスとココトリスに微笑みかけた。人間一匹と思ってるなら大間違い。歯向かってくるなら本気の全力で
蟲との問題が片付いてないのに今度は蛇。権力がなくて何も成せなさそうなので、ここらで権力を手に入れるか。身内が死ぬと辛いので人も大狼も手足代わりにしようにもいつも上手くいかない。結局単身になってしまう。
使えそうだが蟲は本能が拒絶している。しかも、もうヴァナルガンドに
その点この蛇一族は手付かずそう。ドメキア王族と何かしら因縁ありそうだが、守護神の由来そうだから良い意味でだろう。ドメキア王族の命の恩人ティダ。手を出させない交渉材料がある。
このバジリスコスとココトリスを支配下にする。
駒はいくつあってもいい。それも特大の大駒。絶対に身の内に取り込んでやる。
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