蟲の民セリムの激昂 8
生身で蟲森を歩けるということにセリムはまだ興奮冷めやらなかった。
「僕も最終境界線に向かいたいが、一日あるならのんびり歩いて向かうかな」
ホルフル蟲森とは植物がまた違うなと周りを見渡していると、名も分からぬ大きな木の子の影から急に
〈子らとアングイスとセルペンスの子らが呼んでいる〉
セリムは首を傾げた。
〈アングイスとセルペンスの子とは誰だい?〉
〈乗れ〉
何度聞いても答えてくれないのでセリムは木の子に登ってから、
あっという間に蟲森の上空へと移動した。夕日が沈もうとしている。海へと飲み込まれようとしている、
〈
セリムは体を乗り出した。
〈バジリスコスとココトリス?〉
答えてくれないかと思ったが問いかけた。
〈近海の民、
セリムは大きく目を丸めた。
〈それは御礼を言わないとならない!海にも蟲のような生物がいるなと思っていたが、盟友ということは別の一族なんだよな?〉
〈そうだ。住処も意思疎通の輪も違う蛇一族。我等とは別の巣。船を
セリムは身を乗り出すのを止めて、海を眺めた。
〈バジリスクとコカトリス。蛇の王と
旅人から姉クイが譲り受けた絵本。絵柄が珍しく、そして異国情景が楽しくて何度も何度も読んで貰った。父ジークへも夜な夜な頼み込んで、兄ユパに仕事の邪魔をするなと叱られた。
〈何の話だ?
当然だ、というような
〈アシタバの民を侵略したからか〉
〈そんなこと今まで何度もあった。ドメキア王族を守ると
シュナか。それはセリムも腹が立っている。国民は一部を除いて謝罪もしてない。
〈怒っているということはこの国はどうなる?バジリスコスとココトリスと話をしたいな〉
〈おそらくそれで我等の子らとアングイスとセルペンスの子らがセリムを呼んでいる。回りくどい奴らだ〉
ドメキア王国が毒蛇の巣と呼ばれる由縁。
--女神シュナと双子の男神エリニースがアシタバ半島の誕生神と言われている。シュナは
〈テルムとアモレの子供達。双子はシュナとエリニース。
ドメキア城なら
--裏切りには反目するが、生き様見せれば互いの背中を預ける。刃突き刺されようと信頼を示す。
蛇一族への
〈難しい話。古い話。セリムは我等よりも
〈
〈あまりに恐ろしく、憎悪渦巻く記憶の底。我等は近寄らない〉
何のことだろうか?身に覚えがない。
〈僕もそんなところは見ていないよ。僕は未熟で弱いから君達が近寄らない所を見れるとは思えない〉
第一境界線には
〈子らが遊んでる。セリムは子らの所。子らはセリムのせいで全く言うことを聞かない。輪がおかしくなっている。早く直せ。姫とシッダルタは安全地域。人が攻めてきては困る〉
〈それはどういうっ!〉
セリムの元に
〈おこりんぼセリムが遊びに来た〉
〈レークスは仕事って言ってたのにセリムはこっちにきた〉
〈アピスの子にセリムを任された。遊ぶぞセリム〉
また訳が分からないことを。セリムは地面に投げられた。回転して着地すると「楽しい?」と大合唱。ここにいる
〈楽しい?も何も着地しただけだよ。レークスが君達に教えたように僕には大切な仕事……〉
セリムは足元に集まってきた蛇に目を止めた。セリムの身長分離れて輪になっている蛇。二種類いる。頭部に角が生えている大型めの蛇。角の本数はまちまちなので個体差があるようだ。もう一種類は頭部の口元が
一匹もセリムのところには来ない。怖いのだろう。
〈僕はセリム。
アングイスとセルペンスの子はセリムの周りをぐるぐると回りはじめた。牙を剥かないので敵意は無いのだろう。観察されている。
〈
セリムの頭に一匹、
〈噛んでも怒らない?だって〉
〈噛む?噛まないと怖くないと分からないのかい?〉
痛い思いを進んでしたいとは思えない。
〈セリムが噛まれる。そしたら
また新たな謎の発言。兄弟になるとは何なのだろう?一つ分かるのは、噛まれたら蛇一族と話せる可能性が高い。
〈どうして僕が噛まれるとみんなが兄弟なんだい?〉
〈セリムは
セリムの背中に次々と
〈そこまで言うなら噛まれても良いよ。でも一匹に責任を負わせるのは可哀想だな。何匹かおいで。君達がそんなに言うなら死にはしないのだろう?おいで蛇の子達〉
〈アングイス!〉
〈セルペンス!〉
セリムは突撃してくる
〈アングイスとセルペンスの子と呼ばなかったことは謝る。しかし抗議するのに体当たりは悪いことだ。今まで注意しなかったが今は外交をしている。偉い子ならそれなりの態度をとりなさい。僕と巣で遊ぶ時は良いが、他所様にはそれなりの態度を示さないとならない。お行儀良いと見せなさい〉
わっと
〈偉い子はお行儀良いんだ!おこりんぼセリム!〉
ちっとも行儀良くない。
〈怒るのと
ふよふよと下降してくると
〈今のはお行儀悪い子だって。今のはセリムに従えって。おこりんぼと
子供というより赤ん坊のようだなとセリムは苦笑いした。
アングイスとセルペンスが二匹づつ蟲の道を這ってきた。どっちがアングイスでどちらがセルペンスなのだろうか?周りの蛇達よりも随分大きい。牙が大きそうなのが嫌だが噛まれたら話せると思うと怖いよりも、うんと胸が踊った。
蟲に大狼に蛇。この大陸には他にも話が出来る生物がいるかもしれない。神話を調べれば何か分かるだろう。蟲の民の国はあらゆる生物と交流を図ろう。ティダの故郷にいけば龍にも会えるかもしれない。そうだ、まずは龍について調べよう。
セリムは袖を
〈セリムはへんてこりん〉
また変だと言われた。何なんだ!
手加減なのだろう。針で刺された程度の痛みだった。
〈行くなシュナ!〉
〈嫌よ!私だけ残るなんて絶対に嫌よ!〉
激しい目眩がしてシュナとアシタカの声が聞こえた。少し声色が違う。
セリムはその場に倒れた。
***
〈テルム。テルム。血の匂いがするよ〉
一番小さな
海岸端の岩場の影に人の髪らしきものが見えた。金髪だ。村の誰か崖から落ちたのか?
「大丈夫ですか?」
岩陰からチラリと顔を出したのは若い娘だった。雪のように白い肌。見たことがない横顔だった。胸がざわざわとした。すぐに岩陰に全身隠れてしまった。
声と
「僕の名はテル……」
突然、岩陰から娘が飛び出してきた。黄金稲穂の巻き髪が海風に揺れる。手に剣を握りしめて鬼のような形相で
〈大丈夫よ私に任せて逃げなさい。ペジテ人は何をするか分からないわ。泳げるなら海ね。子蟲が海に入れるなら貴方達も海へ入れるわ。海ならきっと安全よ〉
娘がゆっくりと蛇達の前に進み出て、テルムに剣を向けた。テルムは苦笑いしながら両手を挙げた。何か勘違いされている。崖から落ちたのか服が汚れて、破れて、肌に傷が見える。愛らしい顔にも傷がある。金髪に白い肌はアシタバ人だろう。しかしこのような綺麗な女性なら、近隣で噂になりそうだが聞いたことがない。
綺麗な、そう考えてテルムは変な汗をかいた。そんなこと考えるのは初めてだ。思わず視線を落とした。
〈遊んでただけ。また姫は早とちり。ついに
〈
テルムは娘に目線を戻した。驚きで気づくのが遅くなったが、この言葉は直接届いている。蛇達と同じ方法だ。姫?娘の瞳がさあっと青く変色した。そのことに更に驚いた。目の色が変わるなど聞いたことがない。蛇姫?
「僕はテルム。この近くの海辺の村の漁師だ。蛇達とは仲が良い」
慌てたように娘が剣を背中に隠した。それから深々と頭を下げた。
「ごめんなさい。勘違いしました。あとペジテ人はなんて勝手に決めつけたのもごめんなさい」
〈テルムは優しいから黙っててくれる。手当もしてくれる。手当が終わったら帰ろう。そんなに閉ざすから皆が心配している〉
〈海に入ってみたかったのよ。お父さんも皆も心配性過ぎ!〉
「海に入るならその怪我が治ってからだな。手当しよう。村から色々持って来るから待ってて欲しい。蛇達よ、彼女と待っててくれ」
テルムが背を向けると大声がぶつかった。
「アングイスとセルペンスよ!蛇達じゃないわ!」
〈アングイスとセルペンス!一緒にするな!仲良しだけど全然違う!〉
テルムは振り返って思わず苦笑いしてしまった。年齢が近そうだがかなり幼い印象だ。
「なら君は?」
「私?アピスよ。多分もうすぐ名前が付くの。父がうんと悩んでいるからとても素敵な名前が付くわ。名前が二つになるのよ!」
あまりにも幸せそうに、屈託無く笑うのでテルムは見惚れた。こんな風に一点の曇りなく
***
ぼんやりするなとセリムは頭を振った。
金髪の巻き髪はアモレ。それならば黒髪短髪はテルム?蛇達の記憶が流れてきたのだろうか?幸福感がセリムの胸を占拠している。しかしその前にはあまりにも辛い感情が押し寄せてきていた。アシタカとシュナに似た声をしていたが、別人だろう。シュナとエリニースの記憶。蛇一族に残っているのだろう。
〈蛇の子セリムは大丈夫だった。蛇の子アンリは死ぬかもしれない。蛇の子セリム遊ぼう!〉
〈蛇の子?死ぬかもってアンリさんはどうなってる?アングイスとセルペンスの子よ、遊ぶと騒ぐのを止めて少し話をしてくれないか?〉
ぐるぐると蛇達がセリムの周りを回っている。
〈生きてる。ピンピンしてる。セリムはよく変になる。へんてこりんがもっとへんてこりんになる〉
頭の上で
〈
〈話せるのに話しちゃダメっていうから黙ってた。さっきも聞いたよセリム。もう蛇の子だから遊んでくれる?遊んでもらって良いって親が言ってる。遊んで蛇の子セリム!蛇の子アンリは後で遊んでくれる!〉
何だ?試されていたのか?少し気分が悪かった。しかし目の前の子達ではなく親の方だ。
〈ふむ。君達と遊ぼう。しかし親は何処にいる?危険な場所に子達だけとは感心しない。それに試されたのもあまり気分が良くない〉
〈おこりんぼセリムはどんどん遊ばないといけない。楽しーいやつして。抱っこ〉
これを百匹するのか。忙しいのだがなと思いながらもセリムは近くの
〈
〈
角蛇達が体を揺らした。海中の海藻のようにゆらゆらと愛らしい。
〈
泳ぐことと走ること。予想外の回答にセリムはしゃがんだ。近海の民と言っても海は
近くで体を観察してみたいなと手招きするとワラワラと集まってくれた。セリムは片手を上に挙げて
〈泳げるのかい?〉
〈当然!海に住むから泳げる。海でも陸でも毎年アングイスとセルペンスで戦う。去年はセルペンスが勝った。ココトリスは負けたけど〉
〈海は陸より安全。アングイスとセルペンスは仲良く暮らしてる。泳ぐのはアングイスが得意だけどセルペンスも負けない〉
運動会でもしているのか?それは実に楽しそうだ。海と地中で別れている訳ではないらしい。この大地の下に住むのはアシタバの民?
セリムは一番近い
〈遊んだら抱っこしても良いかい?僕が得意なのは風を詠むことだ。
〈ブンブン揺らして!跳ねるやつする!昔、蛇の子にしてもらった!〉
蛇達と交流していた人間が蛇の子か。ドメキア王族の誰かだろうか。セリムは指示された通りに鞭を回した。低い位置だとつまらないと怒られた。胸の高さで鞭をゆっくり左右に揺らすことになった。勢いよく這った蛇達が次々と鞭を越えるのを眺めるのは楽しかった。幼いのに力強く
〈ヘトムが遊びにきた!〉
〈ヘトム!〉
--ドメキア王国唯一の人の王シュナ・エリニュスと108名、そして古きテルムの子に祈りを捧げさせよ。先頭は孤高ロトワの龍の皇子
〈子蟲よこのフェンリスと楽しく遊ぼう〉
ティダの声だ。ティダが
〈ヘトムは何て言っているんだ?〉
遊ぶの大合唱で、それに遊べることの高揚感のせいか返事が無い。
ティダだ。
大地が揺れる。セリムは倒れないように踏ん張った。土柱が上がるかと思ったら、土煙は少なく地面が
〈子蟲達よ。花火になりたいのだろう?花火というのは筒から打ち上がる。この穴は筒のようだ。楽しいことをしようではないか!〉
地盤沈下したところに
過激なパフォーマンスはティダの
〈子蟲よ、あの地にいるのは?〉
〈アングイスとセルペンスの子。海から遊びに来たって。セリムが蛇の子になったから海から遊びにきた。
〈ふむ。俺にはさっぱり分からん。ヴァナルガンドが蛇の子になった?〉
セリムにもさっぱり分からない。しかしティダの目的も分からない。ティダの頭に黄色い産毛のアピが乗っていて、ティダが掴んで穴へと投げた。下手投げでくるくると回すように投げられたので悪意はなさそう。パズーとティダの側なら安全だと言い残したぼんやりとした記憶があるが、パズーはどうした?
ティダの声が全くしなくなった。
脅迫。
誰かを脅迫している。
セリムではない。セリムは振り返った。ここにいてティダが脅迫しそうな相手。セリムと話すのを拒絶している
子供達から「もっと!」「楽しい!」とある意味背筋が凍るような言葉が届いてくる。ティダならこの子達を殺しはしないだろう。しかし何かあったらどうする⁉︎ティダの周りにも
--蛇の子アンリは死ぬかもしれない
これだ。これしかない。それなら本気で穴を埋めるかもしれない。セリムは
〈バムバムも蛇の子になった。あと孤高ロトワ龍の皇子の妃もなったって。
〈アンリさんはどうした?おい誰か答えろ!ティダ!聞こえているのか?〉
誰も無反応。この直接話す方法という不思議な術、ちっとも便利じゃない。この距離なら実際の声が届くとセリムは口を開けた。その瞬間、地震に
地面が盛り上がった。割れた大地から巨大な蛇と、それよりは遥かに小さい蛇が現れた。小さいといっても三十メートルはある。巨大蛇は三倍近い。
〈孤高ロトワ龍の皇子。妃に友好を示し我等の身内にした。会談を求めている。しかし我等の子に何をしている?〉
二匹の美しさに見惚れていたらティダが
〈おい。何をする?〉
まさか。
ティダが背負い投げのように
岩場に
無敗神話の大狼兵士。
ティダの本気がここまでとは予想外。セリムの腰は抜けそうになった。とても人とは思えない。ああ、大狼か。人の形をした大狼。ラステルと同じく何か人とは違うのだろう。納得したら震えは止まった。それにしても
〈バジリスコス⁈〉
〈孤高ロトワ龍の皇子⁈そんな肩書き知らん!我が名は
名も名乗らずに先手必勝とばかりに
〈バジリスコス落ち着け!〉
〈
地盤沈下の穴から
〈楽しそうな
〈貴様、何ていう卑怯者也〉
ティダが地盤沈下した穴へと走っていく。セリムは苛々しながらティダの元へと移動した。手段を選ばないのは知っているが、無関係の、それも幼い赤子のような子蟲達を巻き込むなど言語道断!
〈卑怯者?たかが人間一匹に巨大蛇二匹。妻を人質にとっている。俺から見たらお前らこそが卑怯者だ。この通り小さな体なので知恵を絞る。でないと滅ぼされる。戦に必要なのは貪欲な勝利への執念。俺には俺以外の命が乗る。何でもするさ〉
〈たかが人間一匹?孤高ロトワ龍の皇子ティダよ、どう見ても人間ではない。人間がバジリスコスを投げ飛ばすなど無理だ。貴方の妃を人質になどしていない。蛇の子は我らの宝。蛇の子とした。友好の提示である〉
どっちもどっちだ!しかしティダの怒りは理解出来た。
苛立ちで会話を聞き逃したがティダが穴に土を蹴り入れたので脅迫したというのは明らか。今、穴の中には
〈バジリスコスよ。この意味分かるな?手打ちにしないなら俺は容赦しない。手を組みたいから我が妃に牙を剥いたというなら、手打ちにしろ。蛇の子というのに敬意を示すべきだと俺の勘が言っている。俺はこの穴を埋めたい程怒っている。それほど妃が大切だ。しかしそれでも許す。我が妃に蛇の子という特別そうな地位を与えた上で会談を要求した相手には一旦敬意を示すべきだからだ。話くらいする。バジリスコスよ、ココトリスとやらの進言通り怒りをおさめよ〉
ティダがにこりと屈託無く微笑んだ。セリムは虚を突かれた。この豹変振り、とても真似出来ない。
〈バジリスコスもこのココトリスも争うつもりはない。貴方の妃、蛇の子になれると見極めたつもりが爪が甘く辛い思いをさせた。すまない。謝罪が遅れたことも謝ろう。しかし今はとても元気である。心配なら連れてこよう〉
〈誰にでも過ちはある。俺も怒りで判断を間違えた。いきなり襲いかかって申し訳ありませんでした〉
ティダが胡座をかいて頭を地面につけるくらいまで下げた。怒りで判断を間違えた。計算なのか本気なのかさっぱり判断出来ない。しかし、ティダにはもう怒りも殺気も綺麗さっぱり消えている。
本当に分別つかないくらい激怒していたのだろう。
〈分かった。手打ちにしよう〉
セリムは走る速度を落とした。走り続けてさすがに息が切れた。もうティダと大分近い。
「ティダ!何をしている⁈」
返答なし。ティダはまだ頭を下げている。むしろ先程よりも頭を低くしていて、額が大地についていそう。これ程反省しているのなら、セリムから何か言うこともあるまい。ティダは何もかも分かった上でそれでも子供達を利用した。ティダなら大いに己を省みて改善に励むだろう。
「ティダ!何をしている?」
顔を上げたティダは笑っているのに、殺すというように鋭い眼光放っていた。セリムは思わず後退した。何か誤解されている。
「何を?突然色々あって混乱している。ヴァナルガンド何もかも許すがこれは何なんだ?何が起こってる⁈俺のアンリに手を出させたのなら、それなりの代償払ってもらうぞ?蟲と人との案件はどうした。蛇と何している?俺はこれからこの蛇達バジリスコスとココトリスと会談する」
--俺のアンリに手を出させたのなら、それなりの代償払ってもらうぞ?
憎々しげなティダに、セリムの全身から血の気が引いていった。
〈誤解かすまなかった。まああそこまで一途な子蟲を死なせるなど万死。そのくらいお前も分かってるだろう?何だあの赤ん坊みたいなのは。それに扉をいくつも抱えて妙な奴め。しかも中心にいるようだし奇想天外な男だな。守りたいならしっかり守れ。俺には優劣あるから利用出来るものは何でも利用する。あの蛇二匹、支配下にする。特大の大駒になるだろう〉
ティダが
ティダがラステルに頭を下げたことを思い出した。それからドメキア王国の大地に足を下ろした時の事も。ティダは腹に一物抱えて二匹の蛇の王に頭を下げた。
--俺はこれより先、今まで以上に優劣をつける。俺は力があり過ぎて時に踏み外す。人を惑わし不本意な騒動も起こす。必要があれば俺を壊せ。
ドメキア王国の大地に降り立った時のティダの言葉を思い出して、セリムはティダに手を伸ばした。
「間違えれば死なせるような事に無関係の、それも赤子のような子を巻き込むな。何もないだろう、でも所詮は
ティダがゆっくり立ち上がった。それから不敵な笑みを浮かべた。セリムはたじろいだ。
「俺には俺の矜持よりも上のものがある。妻、大狼、そして友ヴァナルガンドと妻ラステル。次は愛娘シュナ。その次はムカつくが劇薬至宝。俺の矜持はその下だ。目的の為に手段を選ばないのも知っているよな?よくよく覚えておけ。分かっていて子蟲も子蛇も利用した。俺なりの最善だったが確かに何があるか分からない。俺もお前がそこまで子蟲を想うというのを覚えておこう。本能的に嫌悪しているからつい利用してしまったが二度としない。ヴァナルガンドよ、脅迫はお前もしているではないか?それについて話をしよう。座れ。正座だ。知らぬなら胡座でも構わない」
ティダが腰に手を当てて仁王立ちした。セリムは気圧されて素直に腰を下ろした。正座が何か分からないので胡座をかいた。
〈
ティダが
ティダがセリムの前に胡座をかいた。
「さて一応訳の分からん蛇は抑えた。悪かったなヴァナルガンド。出来が良いからまだ幼いのをつい忘れてな。もっと気にかけてやれば良かった。俺は何でも背負う男だ。潰れないように適当な荷を捨てる判断力もある。無駄に長生きしてる訳じゃねえ。丁度シュナを手放したところで随分と余裕もあるぞ。それから人の中で唯一無二の友の件は全部背負うさ。覚えとけ。気づかずに悪かったな。どれ、色々話してみろ」
泣き笑いしたティダにセリムは面食らった。ティダの腕がセリムにゆっくり伸びてきた。何をされるのか分かったので大人しく受け入れた。ティダがセリムの髪をぐしゃぐしゃに撫で回した。
思わず涙が
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