蟲の民セリムの激昂 5
目元の涙を拭いながら語っていたアシタカが口を閉ざした。ティダは大きくため息を吐いた。
「人として人を裁く。何を今更。アピスの憎悪と絶望の根幹に触れているのは前からの筈。何に怒ったんだか。変な男で理解出来ん。怒ってもヴァナルガンドは妙に冷静。境界線に俺やシュナを立たせて何をさせたいのか。全く、作戦があるなら言えよ。しかしお互い様か」
青々とした空が無性に腹立たしい。入り込んだ
行く道が違うからと無闇に手を差し伸べるのを止めた。ティダはアシタカを
しかし、何よりも自分に腹が立つ。
「セリムが怒ったのは、二千年もの間に人が蟲にしてきた仕打ちに対する認識の違いだろう。それこそシュナへ対する二十五年間の仕打ちの比ではない。もしかしたら、重ねたのかもな……。二千年分の罪に相応しく、命の尊厳も守る解答。セリムからの難題。牙には牙か……」
ティダの
「あの、アシタカ様それはどういう意味です?二千年分?」
「セリムはそういう男だ。恐らくだが、もう蟲はドメキア王国をほぼ許したのかもしれない。セリムはそれを
ティダは立ち上がった。ここまで考察しているのならば自分は不必要。要求通り第一境界線に立ち、
「待てティダ。僕の勘の悪さと人を動かすのが下手なところを補って貰わないと困る。蟲に恐怖を抱いて出撃しようとする者を第四軍に抑えてもらう。それにも君が必要だ。第一境界線へはまだ行くな。セリムのことだ、そこが一番安全……いやそこだけは絶対に戦場にしないつもりだろう」
明け透けない助力の要求に虚を突かれた。こんな男だっただろうか。やはり変わった。なんていう勢いで己を食らって、伸びていくのか。アシタカはティダの反応を別段気にするようでもなく、ルイへ笑いかけた。
「ルイ、セリムは耐えきれなくて怒りを爆発させてしまった。蟲と心繋げてから一人で悩み、律していたのだろう。助けてやりたい。セリムが冷静な間、交渉相手に相応しい者を見定めていた。ルイ、君はセリムに選ばれた。セリムを理解している僕達が支えるという前提でだが、セリムは交渉相手に相応しくないヴラドやリチャードは追い出した。だから大丈夫だ。セリムは二日も時間をくれた。材料も多く残してくれた。共に悩み考えよう」
始終青ざめているルイの背中を、アシタカが優しく叩いた。笑みも真似出来ない程に穏やか。ルイがあっという間に気力を取り戻し、血色の良い表情になった。
パズーが声を上げて泣き出すと、アシタカがさっと立ち上がってパズーの肩を優しく撫でた。ついでなのか胸に張り付いている子蟲の産毛も撫でている。子蟲がパズーの頭に移動して、まるで兜のように張り付いた。子蟲の目はラステルそっくりな新緑色。
「パズー。君が何より必要だ。セリムのことを一番理解している。だから残された。大切な子蟲のアピ君を置いていった。この子が一番懐いている人間だって聞いているよ。セリムはグスタフに生涯を通して他者や弱者の気持ちが分かるような裁断をした。命を差し出せという安易な回答は求めていない。平和的かつ、険しい道の要求。それも自らで考えろという要求だ。僕がドメキア王国に求めた内容をセリムは吸収したんだろう。共に悩んで欲しい」
パズーがしゃくりあげながら、ぶんぶんと首を縦に振った。
「シャルルもそうだ。セリムは君をとても
立ち上がったアシタカが今度はシャルルの背中をそっと撫でた。波が
「いえ、あの。ヴァナルガンド殿は過大評価……。王族……。王位継承者へ伝わる書物があると父上から聞いたことがあります。ああ、昔はそういう語り聞かせもしてくれていた……。グルド帝国やベルセルグ皇国からの年々激しくなる侵略に貴族からの圧力。シュナの母の謀殺も止められず……父上は随分と変わってしまった……。そうだ、そうだ……昔は……」
両手で顔を覆って泣き出したシャルルに、全員が目を丸めた。ティダも
アシタカが気まずそうに
「セリムはシャルルとシュナがグスタフと向き合う時間も用意してくれた。グスタフから書物の件を聞いてきてくれるかい?誰か共にが良いだろうが、僕には分からない。君には判断できるかい?」
「辛いだろうがシュナだ。私は口が下手だし、臣下などに父上は絶対に心開かない。シュナも父上に怒りを投げても良いと思うし、ナーナ妃のことを父上が気落ちしていたことは知った方が……。私なら橋渡し出来……してみたい……あとヴァナルガンド殿と共にいた護衛の女性。あの方はヴァナルガンド殿とどこか似ている。シュナとも親しそうで……」
弱々しく途切れ途切れだが、適切な判断をしていくシャルル。こんな男ではなかった。シュナとの祝言後の
半信半疑ながらヴァナルガンドに任せれば、何かが変わるかと任せたがまさかここまで変わるとは。いや、シャルルのような男はこれ程急に変化など出来ない。本当に隠れていただけだ。よくこんなのを見つけ出した。
しかし、アシタカはやはり変わった。このように弱いところを見せて人に頼みごとをするような男ではなかった。夜な夜なシュナと語り合っていたというが、その影響か。ヴァナルガンドとも何かあっただろう。ペジテ大工房にはヌーフもいる。
腹の底から煮えくり返るような
覇王。
アシタカは本当に大陸覇王となる。巨大国家の御曹司なのに、
ティダでは何もかもが劣る。いや、個人的な戦闘力は勝るか。それしかない。
生き様こそが全て也、シュナの
--頼まれたように"気の迷いと勘違い"と忘れる
自覚しているのか、していないのかは別にしてシュナは単にティダよりもアシタカを上だと見抜いた。うっかり惚れられて、自分には手に余ると野に放ったつもりがとんだ道化。このままでは何も成せないし、シュナから逃げたのに結局捕まったアンリにも捨てられる。
何より、アシタカの犬から脱却出来ない。
やはり史上最悪最低な男。なんていう劇薬。このような男が居るとは世界は広い。完全に
「アンリ長官か。彼女なら喜んでシュナの手伝いをするだろう。二人には僕から頼む。しかし、今の言葉は君からきちんと伝えるように。シュナは君を許すのに必死だ。そうだ、セリムも許すのには理由が必要だと言っていた。シャルル、君のこの後悔や悲痛がシュナに届き、きっと彼女の棘を抜く」
にこり、とシュナに笑いかけたアシタカの笑みはヴァナルガンドそっくりな親しみと尊敬こもった笑顔だった。
これだ、この包容力には絶対に勝てない。ヴァナルガンドとは違い、アシタカは意識して己の雰囲気を使い分けはじめた。
他者を絶対的安心感へ導くアシタカの雰囲気。生来の性質もあるだろうが、ヴァナルガンド同様、国民に愛される御曹司として育ったからこそ手に入れた力。根っこに人間好きと、人への信頼が埋まっているからこその能力。欲しくても手に入らない力に、思わず舌打ちしそうになった。
アシタカが立ち上がって全員を見渡した。ティダにだけは何故か苦笑いを浮かべた。この、お前には敵わないという自己認識の低さが憎々しい。
「シュナの代わりをしろということだな。どうせアンリもシュナと居るだろうから、玉座の間へ戻るように言っておく。この部屋を使う意味はねえだろう?パズー、アシタカを、いやヴァナルガンドを頼んだからな」
「いや、ここだと蟲の様子が見える。一応確認していたい」
アシタカが元の席に戻った。ティダはまだ泣いているパズーの脇に移動した。それから子蟲を引き剥がして髪を強めに撫でた。このくらいしか出来ないとは、なんとも情けない。
ついでなので、子蟲も顔の高さに持ってきて反対側の手で産毛をパズーと同じように撫でた。全身がザワザワして気持ち悪い。
〈幼いのに良く残った。パズーの護衛だろう?〉
〈ヘトムはやっぱり変。こんなに嫌いなのにアピスの子を可愛がる。格好良い
憎悪に飲み込まれそうで閉ざしていたが、そんな事になっていたのか。チラリとアシタカを見たが不思議そうにしているだけだった。
〈古いテルムの子は未熟すぎてお話し出来ない。一回話せたのに全然学んでない。こっちの声も聞こえなくなったとセリムが言ってた。全く遊んでくれない。つまらない。バムバムが一番安心〉
思わず高笑いが
〈こいつがバムバムか?〉
〈おバカなトムトム。ちっともアピスの子の事を分かってないおバカ。でもいつも楽しく遊んでくれる〉
今度はクスクス笑いが込み上げてきた。言葉を発すればすぐに遊びに関することばかりとは本当に子供だ。ティダはくるりと子蟲を回してから頭の上に乗せた。鳥肌と冷や汗が止まらないが、そんな
〈もう一回!くるくる楽しーい!〉
〈俺はヴァナルガンドとは違う。働いたら遊んでやる〉
頭の上から飛ぼうとした子蟲を軽く押さえつけた。
〈偉い子は働く。ヴァナルガンド?〉
〈セリムだセリム。俺はそう呼ぶ。ヴァナルガンドが何を考えていたのか教えろ。そしたらまた遊んでやろう。大狼と風にもなれるぞ〉
教えてやるものかと、全員を無視して大蛇の間を後にした。誰も何も尋ねてはこなかった。階段を降りていると、子蟲が歌い出した。ヘトムとへんてこりんの繰り返し。呑気なものだ。ノアグレス平野の
〈アピスの子は流星になりたい。花火にもなる〉
〈なんだそりゃ。そんなもん消えちまう。なるなら星になりな。男なら死んでも消えない暗闇照らす巨大な星を目指せ〉
玉座の間に
〈ヘトムもおバカ!アピスは男で女。バヘトム!〉
〈そんな珍妙な、しまりのない名前を付けるんじゃねえ。俺はフェンリス。覚えとけ。蟲とは違って個体に名があるんだから他種属のしきたりに従え。フェンリスと呼ばぬと遊ばんぞ〉
一瞬、
〈おいフェンリス。何だそのアピスの子は?蟲を嫌っていただろう。全身に凄い拒絶反応だがそれさえ飲むのか?〉
〈アラーネアの匂いがする。アラーネアとアピスの子はお話ししちゃダメだって。親がアラーネアの輪を切るって。アピスの子は意味が分からない〉
子蟲が告げた途端、どんなに切ろうとしても切れなかった蜘蛛の意識の輪がブツリと切断されて別の扉が出来上がった。
〈蜘蛛から離れた。あいつらアラーネアと言うのか。ヴィトニルもだな。フェンリス、自由に話せるな!〉
くるくると回転しながら落下してくる子蟲を抱き止め、もう一度投げた。キャッキャッとはしゃぐように、子蟲が楽しいと騒ぐ。扉を圧迫して押し開かれる。楽しい、ホルフルにも来て遊べの大合唱。
〈油断しないかフェンリス!ぐはははははは!〉
〈ウールヴと俺を見習えスコール!大狼なら常に戦闘態勢を崩すなよ!おいおい。棚からぼたもちとはこの事だ。良くやったアピスの子よ。黄色いのはホルフルだっけか?全員をまとめて俺が囲ってやろう。人や獣、何でも害なす奴がいて必要があれば俺が手を貸す!ウールヴとヴィトニルの若輩筆頭を身内にしたのはデカイぞ!スコール、お前も役に立てよ!とりあえず尾ででも遊んでやれ!〉
ティダは思いっきり
長年ずっと不自由だった。思う存分語り合える。ティダは
〈早いなヴィトニル!自由だ!ヴァナルガンドとホルフルアピスの子の手柄だ!そして俺だ!ふはははははは!〉
〈油断しないかフェンリス!ふははははははは!〉
ティダは
〈笑い方以外ウールヴと同じだヴィトニル!俺こそが未来担う若手大狼の頂点!
また飛び乗って思いっきり
〈アピスの子よ!何が欲しい!いやホルフルのアピスか!この値千金の手柄に俺が与えられるものなら何でもやろう!〉
チラッとシュナとアンリ、そしてゼロースと幾人かの騎士の姿が見えたが無視した。
〈ロトワなら大狼が幾らでも遊んでやるのだがな。ホルフルに岩窟があるなら少しばかり移住するか?しかし、自然摂理分は餌として食らう。どうしたい?〉
真っ青だった子蟲の三つ目が
〈ホルフルアピスは何もいらない。食べられたくない。アピス以外にも怒られる。親がアピスの子の為にしただけだって。何もいらない分、アシタバアピスの
〈ふむ。ならばホルフルの食物連鎖を壊すのは止めよう。むしろ大狼は近寄るなと伝える〉
サアッと蟲の瞳が青く変わった。それにしても面白いように変化する。
〈セリムは
分からない。セリムはへんてこりんと歌いだした子蟲にティダは失笑した。とりあえず頭の上に子蟲を乗せた。人の頭の上が気にいっているようなので、仕方ない。全身が気持ち悪い感覚だが、これも修行。
〈蟲にまで呆れられてるのかよ。おまけに止められないのか。パズーやアシタカの推測よりもタチが悪い。船でといい、また妙な
伝承や忠告があるのに歩み寄りをしてきてない人への怒り。蟲から人への慈悲を仇で返し続けてきた人への怒り。罪を憎まずに暴力で
蟲と交流し始めてから、本人も気づかないうちに相当溜まっていたのか。アシタカの言う通り、気づいてやるべきだった。仕事ばかり押し付けて頼り、潰した。
ティダの胸がかつてないほどに
まだたったの一八。正体不明の妻との先行きへの不安も強いだろう。本人があっけらかんとしてニコニコしていたから、というのは言い訳にはならない。人も蟲も全員がセリムを刺した。
ティダはシュナを見つめた。二人がされたことは似ている。
「俺が全軍抑える。アシタカがお前が必要だとよ。アンリもだ。蟲じゃなくてヴァナルガンドが怒っている。二千年分の蟲への仕打ちに相応しい、それもヴァナルガンドの価値観に沿う答えを寄越せってよ。シュナ、お前が適任だがヴァナルガンドはお前を
聡いシュナならもう状況分析しているだろう。シュナが首を横に振った。
「ペジテ大工房の巨大要塞に蟲が風穴開けたのを第四軍は知っている。主軍と第一軍にも伝達済み。闘争よりも避難指示の方に賛同した。第四軍はカイン、バース、ビアーから選抜させて国民への室内避難指示を出させる手筈。ある程度は指示して、任せてきた。貴方は必要ない」
素早い采配に統率力。しれっと告げたがかなり気を遣って指示しただろう。口達者な上に頭の回転の速さや場の操り方の巧みさ。アシタカは協力な武器を手に入れた。やはり悔しくてならない。横に並んだらシュナはティダではなく、アシタカへ助力する。この女を王に出来なかったドメキア王国国民は歴史上で類をみない愚かな集団と呼ばれるな、とティダは口角を上げた。そして自分もだ。まさに悪因悪果。
「その子蟲から何か聞いたんだろう?我が父にもアシタカ様の為に働いてもらう。我が純情を踏みにじった罪は一生消えん。馬車馬のように働かせる!神話を作るのは至宝也!あははははは!付いて来い!」
お前ならば付いてくるだろうとシュナが大蛇の間へ続く階段へと進み始めた。
〈親が親だからあんなになったんだなフェンリスよ。全く、お前は今のうちに変わらんとロクな子が育たんぞ。アンリエッタに子を連れて逃げられても知らんからな。俺達の体じゃ上に行けん。スコール、至宝を呼んでこい〉
愉快そうな
「シュナ、アシタカ達をスコールが呼んでくる。ったく今の姿をアシタカに教えるぞ。この毒蛇が!」
振り返ったシュナが
「あら、お父様。形式そして書類上だけの元夫。
この含み、アンリがもう察している。刺々しいアンリの瞳からティダは目を逸らさないように必死に耐えた。
「シュナ、私をダシにしないで。ティダはそんなこと言わなくても助けてくれるわよ。アシタカの前でボロが出るから素直に接しなさい。ティダ、お互い様だから気にしていたらキリがない。私は気にしないから貴方もアシタカに突っかからないで」
それにしても抱いている時くらいしか、こっちを向かない。貴方しか見えないという強烈な恋慕は、欲情を満たす時だけの演技なのか?可愛げがあるような、ないような、訳が分からない猛毒女。振り回されてたまるか。
〈面白い妙な人間だな。この雰囲気からはお前の真似をして仁王立ちなんざ想像つかない。俺の唸りや牙にも真っ向から信頼寄せて背中を見せた。驚きすぎて噛みつけなかった。まあ、お前の匂いがし過ぎだったのもあるが。良かったなフェンリスよ。アンリエッタはグレイプニルのようにお前を尻に敷くな〉
〈ウールヴ。貴様自分のことを棚に上げて。ヘズナルにペチャンコにされているお前が言うな。俺はグレイプニルに敷かれている振りをしているだけだ。
唸り合う両者の間に立つとティダは肩を揺らした。どこの夫婦も似たようなものだ。ティダは
「アンリ。子蟲とその親により蜘蛛から切れた。これだけ自由な状態なら、俺の体液入ってるお前なら喋れるだろう。挨拶しろ」
アンリの顔がボッと真っ赤になった。それから目を泳がせて少し唇を尖らせた。さんざん抱いてこれとは愛くるしい。他の男の
「そういう恥ずかしい事をはっきりと言わないで。慎みってものを覚えて
「こいつらの鼻なら気づいてる。別に他に誰もいないんだから何が慎み。そんな顔を他に見せたくないから言わないに決まっているだろう?涼しい顔をしたり、さんざん抱いたのにまだ恥ずかしがったり訳が分からん女だな。まあ可愛いから良いか」
益々アンリが赤くなった。
「鼻⁈匂い⁉︎しばらく私に触らないで!匂いが分からない加減を教えてくれるまで触らせないわ!ご挨拶はもうしましたが、もう一度させて下さい。ペジテ大工房のアンリ・スペスです。家業を継いで欲しいと男名を付けられたので、ティダにはアンリエッタという女名で呼んでもらっています。お好きな方でと言いたいですが、親しみ込めてアンリエッタだと嬉しいです」
アンリの
アンリがしゃがんで
〈ウールヴだ。よくもまあこのフェンリスを骨抜きにしたな。適当に種を
〈俺の名、ヴィトニルの名はもう知ってるな。アンリエッタ、ヘズナルはウールヴの妻。俺の妻グレイプニルとも仲が良い。大狼の妻は人なんぞよりも高潔で品がある。大いに学ぶと良い。あと、このままのフェンリスではまともな子育てなぞ出来んから教育して欲しい。偉大な大狼は子孫を残さねばならん。重婚しないらしいから子を取捨選択ともいかないだろう〉
「直接胸に響いてくる。これが大狼の会話なのですね。お二人とも温かい言葉をありがとうございます。ヴィトニルさん、ウールヴさんよろしくお願いします。ヘズナルさんとグレイプニルさんにお会い出来る日が待ち遠しいです」
アンリは声を出さないと喋れないが、そのうち覚えるだろう。ティダはアンリをそっと立たせた。
「匂いがないと本山に行った際に食われる。香料は全体にお
〈ぐははははは!知ってて隠してたのはお前の方だろう?見せびらかしたくてならないと顔に描いてある!ここまで情けない腑抜けになるとは痛快!俺はアンリエッタが気に入ったからフェンリスへの不平不満はいつでも受け付けよう!〉
すかさず殺そうとしてきたので、ティダはアンリを横抱きにして跳んだ。それから
〈
〈そのくらいの分別はある!弱点なしのフェンリスについに弱点!ぐははははは!力で勝てぬならば他で勝つまで!貪欲さこそが俺の長所。子にも見せねばならん!殺す子を減らさねばならんからな!〉
「大狼は子を殺すの?それにしても貴方達二匹ってそっくりな性格ね。笑い方もよく似ている。いきなり二人も教育なんて先が思いやられるわ」
そっちか。
〈よく吠えたアンリエッタ!俺はもうこの二匹を面倒見切れん。この地に留まるからだ。吠えまくれ。そしてスコールにも背を見せ教育者にして欲しい〉
「一夫多妻でより多くの子を残す。自分が一番優れていると誇っているからだ。十を過ぎると大狼は幼子ではなくなり、その時点で大狼に相応しくなければ食い殺される。次は二十の成体式。そうやって
感心したようだが、それから少し悲しそうにアンリが眉尻を下げた。それから急に切なそうな表情になった。
「重婚しないのは嬉しいわね。あー、もしかして、もう親だったりする?」
表情もだが声も悲しそう。これはまた殺人級に愛らしいではないか。
「国も本山も中途半端でそこまで手が回らなかった。時期を避けて遊んでたから子は居ない。アンリエッタ、君とも
あまりに嬉しそうに笑うので、キスしようとしたら口を手で覆われた。
「人前で止めて。ほら、もうアシタカ達が降りてきたし降ろして」
降ろしてと嘆願したのに、アンリはティダを突き飛ばして飛び降りた。
猛毒に劇薬。
ここに怒りが
これこそ生きているという実感。
--大狼なんでしょう?それを忘れないで。生きて
誰よりも高みに登らないとならない。
腹を決めたが、再度強く胸の中で決意した。
劇薬に負けるわけにはいかない。ここまでの変化をもたらしてくれた弟分を奪われてなるものか。
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