ドメキア王家と至宝の会談1

 ドメキア城の最大の大広間。四方に同じ高さの建造物がない天空城の最上階。王座の間から続く広い階段通路の頂点。


 銃や弓は届かない。大砲の弾は届くが、全員死ぬ。飛行船による空からの侵入を防ぐ為、分厚い壁と窓がない広間。


 別名 大蛇の間。


 ドメキア王国の歴史の変動を最も知る場所。


***


 窓代わりには王座の間と同じ絵柄のステンドグラス。光がささないので綺麗さは半減しているが、それでも美しい。天井には見事なシャンデリア。国の歴史を語るような絵画が壁にずらりと飾られている。セリムはつい目を奪われた。


 グスタフに扉側へと促されたのに、アシタカは入り口右手の席へと優雅に着席した。ずっと穏やかに微笑んで、シュナの手を恭しそうに掲げている。軽く着飾ると言っていたのに、豪奢ごうしゃな純白ドレスはどう見ても特別な日の衣装に見える。アシタカも大総統ネルが着ていた簡素ながら質の良さそうな黒い服を着ている。確か、スーツという名だ。


 何も知らないと、祝言の式典の後というような二人。グスタフが引き連れる臣下と騎士達の顔は始終引きつっている。グスタフだけは微塵みじんも動揺を感じさせない。突如、王座の間に現れたアシタカも、涼しい顔で見ていた。


 アシタカの隣にシュナ、その隣に当然と言う顔でラステルが着席した。頭にアピを乗せたままだ。シュナとラステルの間真後ろに、か弱い従者という様子のアンリが立つ。セリムの盾と言っていたが考え直したらしい。アシタカの背後の壁に整列する護衛人達。フォンがアシタカの四角い革製の鞄を持っている。数が少ないので、アシタカがティダに連れて行かせたのだろう。ヤン長官が不在なので想像に容易い。


 臣下従えるシャルルが、シュナ姫の向かい側グスタフの隣に招かれた。


「私は蟲の民の世話役ですし、父上の為にも離れましょう」


 シャルルが入り口真向かいの席についた。グスタフが顔を微かに歪め、グスタフとシャルルの臣下と騎士達がざわついた。上座なのかもしれない。セリムは月狼スコールと共に移動してシャルルの隣に座った。


 けたたましい咆哮ほうこうがして、月狼スコールが吠え返した。階段通路を王狼ヴィトニルが封鎖したのだろうと感じた。


「蟲の民、その化物がいると臣下達がおびえる。外してもらいたい」


 悠然と告げたグスタフに、セリムは首を横に振った。


「誇り高い生物で、誰の命令も聞きません。彼は僕を、恐らく下の王座の間か通路の途中にいる大狼はシュナ姫をとても気に入ってくれているのです。この国まで勝手についてきました」


 興味ないという様子で、グスタフはアシタカへ視線を移動した。苛立ちなのかほんの少し唇がピクピクと動いた。セリムは大狼に命令なんて出来ないので仕方ない。大狼は誰の命令も聞かないだろう。


「三年振りでしょうかペジテ大工房御曹司アシタカ様。親書を読みました。是非、協定を結びましょう。ベルセルグ皇国より、共同戦線を張らなければ滅ぼすと脅迫されていて困っていました。此度こたびは大変申し訳ありませんでした。全て不問にすという慈悲には感謝しかありません」


 嘘くさい笑顔のグスタフにセリムは面食らった。ペジテ大工房と手を取り合って、西を平和にする。簡単な事なのにこの拒絶の雰囲気。驚いたのは、机の上に肘をついて手を組んだアシタカも嘘っぽい微笑みになったからだ。シュナに投げていた視線と正反対。


「勘違いされているようですが、我が国が協定を結ぶのは誠意に応えていただいた後です」


 不信感たっぷりというアシタカに、セリムは益々混乱した。シュナが悲しそうにうつむいている。グスタフは顔色一つ変えない。


「そうでしょう。大技師直々に協定会談におもむくとは歴史上聞いたことがありません。外界とは殆ど断絶して沈黙していると、亡き妃よりも聞いておりました」


 淡々としたグスタフの声。アシタカを疑惑で観察している。


「僕は大技師名代です。ベルセルグ皇国との協定の架け橋になると、一族の血を引くティダ皇子が大技師です。名誉国民ということです。我が国を救いに導いた男のつ……愛娘同様ということで、シュナ姫の釈放しゃくほうをしました。僕の従兄弟ですしね」


 妻とは言わなかったアシタカは、愛娘と口にする時も一瞬腹立たしそうに低い声を出した。すぐに穏やかに凪いだ。グスタフは気がついていないようだ。


「慈悲は親戚関係だからということでしょうか。誠意とは何をお求めですか?」


 チラリと牙が見えた気がした。グスタフはアシタカが簒奪さんだつしに来たと思っているようだ。


「会談の議題は二つ。一つ、我が国が報復戦争を撤回するに値する賠償提示。一つ、我が国の大技師一族それもドメキア王国との架け橋になった聖ナーナの謀殺隠滅及び娘であるシュナ姫への108回に及ぶ暗殺未遂放置への説明と賠償提示。賠償は二つまとめてで良いです」


 ほら見ろとグスタフに不信感と嫌悪がはっきりと現れた。臣下も騎士も血の気が引いたような表情をしている。


「僕からではありません。ドメキア王より提示してください。納得出来れば協定を結びましょう。我が国には大掟が存在します。他国の戦に関与するべからず。侵略するべからず。先制攻撃するべからず」


 セリムの出番など全くない、アシタカの独壇場。グスタフはアシタカが語り終わるまで様子見するようだ。アシタカもそれを理解して、静かに微笑んでいる。しかし視線は鋭い。


「今回は自国も巻き込まれた戦です。ノアグレス平野は領土外。しかしドメキア王国兵が我が国の壁に少しばかり傷をつけました。侵略も先制攻撃もしません。報復するなら高らかに宣言し、ドメキア王国領土は焼け野原。我が国は豊かで欲しいものはほとんど無い。領土を増やす気もない。それを踏まえて、建設的な提案をして下さい」


 グスタフ王の顔が明らかにひるんだ。セリムはアシタカの台詞に茫然とした。完全に脅迫だ。アシタカはグスタフ王を無理やり玉座から引きずり下ろしに来た。シュナが自らしようとしたのもこれなのだろう。セリムは全くもって、見当違いだった。どうして誰も教えてくれなかった。


「脅迫して好き勝手出来る者を王にという事ですね。それは属国と言う。私が何を提示しようと貴方は飲まない」


 セリムも思わず口を開いた。


「それは違います。ペジテ大工房は民主主義で、報復戦争にほとんど決まりかけていた。それをアシタカが説得して国の誇りを背負ったんです。アシタカは各国との和平交渉を推進したい。その隣にドメキア王国をと考えています」


 アシタカがセリムへと微笑みかけた。グスタフへとは全く異なる信頼の眼差し。何故この目をグスタフに向けない?


「提案しないのならば、それで会談は終了です。この意味は分かりますね?しかし僕は気が長い。日が暮れるくらいまでは待ちましょう」


 アシタカが組んでいた手を離して、つまらないというようにグスタフに大きな溜め息を吐いた。グスタフがアシタカをにらみつけた。


「属国になり隷属れいぞくせよとは、覇王ペジテ大工房もついに暴挙に出たか。民主主義を掲げていたのに、独裁。病死したというヌーフ殿は話が分かる方でしたのに残念です。要求は全て飲みます」


 再びアシタカが大きく、長く息を吐いた。


「僕は提案が相応かどうかしか考えません。話が全く通じない方ですね。さすが操れもしない蟲を道具にしようとして、息子と娘を戦争に借り出して殺すところだった愚王ぐおう。即座に報復されても文句が言えないのに、会談を設けた僕の慈悲は届かないようだ」


 指をいじりながら、アシタカが肩を揺らした。臣下と騎士達が殺気立っている。護衛人達も澄ましてはいるが、張り詰めた空気が大広間に流れた。


「どうせ示し合わせて来たのだろうシュナ。茶番は終わりだ。早く口を開け」


 ほろり、と一筋涙を流したシュナがグスタフを悲しいというように見つめた。


「王を押しのけて提案するなど国が荒れるでしょう。提示すれば王として扱われそうでなりません。そういう話しなのですよね?私の病をこのように治してくれたヴァナルガンド殿と奥方ラステル様から私の身の上を聞きました。急に視界が開けて戸惑っています。正直に申しまして、状況が飲み込めません」


 儚げに口にするとシュナは両手で顔を覆ってすすり泣きしだした。本当のようにも見えるし、聞こえるが、嘘だ。シュナは何もかも理解している。素知らぬ顔で逃げたのは、グスタフ王へ提案をせよという脅しだろう。


 アシタカが優しく肩を抱いた。


「彼女は目覚めたばかりの眠り姫。重度の胞病ほうびょうで脳までおかされているので、我が友ヴァルと奥方ラステルが治療してくれています。祖国の内情も知らぬ姫が何をどう僕と示し合わせるのか」


 苦々しそうにグスタフがシュナをにらむ。グスタフはシュナが愚かなのは仮面だと知っていた。臣下も騎士も全員、シュナとアシタカの芝居を信じている様子なのにグスタフだけが違う。


 シュナは過去の憎しみを洗い流すために、過去など知らないというように生きていくつもりだ。馬鹿な振りをしていたのを逆手に取って、一から人間関係を作る。シュナを後押しする第四軍や民も一度白紙に戻して、最初から。


「そうです父上。シュナはずっと頭がおかしかった。しかし治った。高熱を出して生死を彷徨さまよい阿呆になったのにヴァル殿とラステル殿が治してくれた。茶番とは何の事です?折角このように遠路はるばる、それも協定を結ぶという話をしに来たのに、何故何もかも突っぱねるのですか?」


 沈黙を破ったシャルルの声は震えていた。膝の上で拳を握りしめている。グスタフが気がついたというように、シャルルへ怒りを向けた。


「豊かで何もいらない。領土も要らないというのに賠償を提示しろなどという答え無しの要求。そんなのも分からぬ、愚息め。笑顔で王交代と隷属化れいぞくかの要求とは腹立たしい。娘が……」


「聞く耳持たないとは知っていましたが、ここまでとは。僕の時間はとても貴重なんですけどね。建設的けんせつてきな意見が欲しいので、この場にいる皆さんも口を閉ざしていないで提案をして下さい。誰でも、自由に。王太子のシャルル王子が会話できるような方で助かります」


 アシタカがグスタフの言葉を遮った。アシタカもグスタフがシュナがずっと聡かったと知っていたと気づいたのだろう。そしてシュナの気持ちをんでいる。アシタカがいなかったら、この会談はどうなっていたのか想像もつかない。任される予定だったセリムは、自分の意見を述べてシュナも賛成してくれると信じていた。シュナともある程度打ち合わせしていた。


 セリムは信頼されている。セリムのシュナへの提案は飲んでもらえていた。


 誰でも、自由に。


 アシタカはこの流れにしたかったのだろう。それからシュナが王位に就くつもりがないという提示。回りくどかったのは何故だろうか。


「誰でも、自由にとは僕も含まれるのかい?僕は再三アシタカにも、グスタフ王にも、シャルル王子へも自分の意見を述べてきました。是非、この場の全員に聞いてもらいたいです」


「勿論だヴァル。僕は拒否されると思っているけれど、君が切望しているから仕方ない。提案は自由。決定権はドメキア王。この国は王政なのでしょう?僕は異国のしきたりに従います。こちらから賠償を提示するとあからさまな脅迫になる。僕は祖国が虐殺するなんて大恥は許さない。しかし即時の報復戦争を抑えるのがやっと。民主制なのに独裁に躍り出た。一時的に許されたのは、我が国が平和を求めているからです」


 さあ好き放題話せ、アシタカの目がセリムにそう訴えている。背筋も伸ばして、また机の上で手を組んでいる。シュナも戸惑いながらもすがっている、というようにセリムを見つめた。わざとらしくない、見事な演技力。これが謀殺から身を守ってきたシュナの武器の一つ。気づいているのかいないのか、ラステルがシュナの涙をぬぐった。


 その時扉が大きく開いた。飛び込んで来たのはバースだった。人物もそうだが、王狼ヴィトニルが通したのならティダの采配だ。


「グスタフ王!内乱です!ティダ皇子が王の為にと先陣切って鎮圧に向かいましたが小軍。シュナ姫を傀儡かいらいにしていたカール不在の第四軍がかねてより不穏な動きを見せていた、メルダエルダ家当主ルイと共謀したかもしれないと……」


 息を切らしたバースがまくし立てた。


「まさか!カールは私に献身的けんしんてきでした。ぼんやりとですが彼女の事を覚えています。民がえそうになれば食物庫を開け放し、病が蔓延はびこれば薬を用立てる。国のために国境線戦でも先陣切って戦っていました」


 バースが背筋を伸ばしてシュナに片膝ついて首を垂れた。


「共謀したかもしれないという、大嘘が流れています。内乱軍に加担しようとしているのは主軍の反乱兵です。第一軍、第四軍と忠義厚い主軍で鎮圧に向かわせてもらいたくて命を受けにきました。シュナ姫、全て知っているというような口振り。病で馬鹿になったという偽りを止めたのですね。貴方様が全て取り仕切っていた事、このバースずっとお側で見てきました。第四軍が謀反を起こすなら、ごく一部のみの愚か者のみです!」


 シュナが被りを振った。それからグスタフとシャルルへ悲鳴を上げそうな、苦悶の表情を向けた。


「ヴァナルガンド殿が何もかも許せというから……。忘れた振りをする方が楽だと思っていたのに、バース……」


 シュナがグスタフを無視して、ジッとシャルルを見つめた。憎しみに揺らめきながらも、必死に耐えているという悲壮感。これは本心に見えた。今まさにシュナが「死ね」と叫ぶのではないかと思うほど、辛そうな表情。


「シャルル王子。昨晩のシュナ姫の気持ち……」


 アシタカが言いかけたのを、シャルルが首を振って遮った。


「昨夜シュナと共にこの国を支えると流星に誓った。それで私は第一軍は現王のグスタフ王に固く忠誠誓えと命じた。第一軍は謀反など起こさない。いずれ王となる私の軍が、この国で最も権力を持つ。シュナが私の宰相となり第四軍を第一軍へ組み込むと約束したので、兵達にも家臣にもその話をした。それでも謀反ならば王家そのものへの反逆。国家反逆罪は最も重い」


 シャルルがシュナへと近寄った。泣き出したシュナがそれでも笑った。


「私を許すと言ったが、まさか全く忘れていないのにとは信じられん。しかしこれ程までに苦しんでまで許すという気持ちを信じられなければ、何もかも信じられない。シュナ、すまなかった。昨夜も言ったように許してくれとは言わない。しかし少しだけ時間をくれないだろうか。誰よりも民を守りたいと、重い病でも頑張ってきた妹の兄に相応しくなりたい」


 シュナに感激したのかラステルが勢い良く立ち上がった。セリムとアシタカが止める暇もなく口を開けた。


「シュナ姫はうんと優しいのよ!憎しみよりも許しを選んで、平和の為に生きるの。とても大変なのに決意したのよ。シュナ姫が何もかも許してお兄様と立ち上がるから、昨晩お祝いが先に来たわ!蟲が毒消しを流れ星にしてシュナ姫に届けたの。シュナ姫が蟲を助けたからよ!だからもうシュナ姫はとても元気なの!兄妹仲良く大陸中の平和に励めば、ペジテ大工房も許してくれるわ!皆で一緒に頑張るのよ!」


 ラステルが支えるようにシュナに寄り添った。場の空気の後押しでセリムとアシタカは顔を見合わせて、二人同時に胸を撫で下ろした。


 グスタフ王が放心している。


「兄弟姉妹仲良く父上を立てて大国の平和を目指す。そしてペジテ大工房が大陸和平を推進するのを手伝う。報復よりも償いをさせる。それも長い、険しい償い。しかしペジテ大工房は燦々さんさんと輝く。感謝され敬われ、覇王はいつか至宝と呼ばれるかもしれない。僕はそういう平和的な提案がとても好きだ。蟲の民ヴァルが途方も無い案を提示したので、何度も会議をしました」


 それはアシタカの案だ。セリムに押し付けてどうするつもりなのか。アシタカが大切でたまらないというように、シュナの両手を握った。護衛人達が一瞬、ギョッとしてすぐに無表情に戻った。アシタカのこの態度は珍しいらしい。女誑おんなたらしは噂でしかないのかもしれない。


「シュナ姫が許しと過酷な道を選んだので彼女と会談に臨むことにしました。残念ながらジョン王子は反省の色が無いので似たような兵達と我が国で償いをしてもらいます。殺しはしません。最低限の尊厳を保証して、働かせます。ペジテ大工房というのはそういう平和を愛する国です。長年不信感で閉じこもっていましたが、有事に際して外界から沢山の協力を得た。僕達は感謝を込めてお礼をしたい。それが大陸和平という願いです」


 シュナの願い。ティダの願い。そして本当ならば、ペジテ大工房にいたアシタカの願い。真心と平和への願い。アシタカがシャルルに親愛の眼差しを投げた。


「シャルル王子も蟲の民ヴァルに提案されて、早速尽力されたと聞いています。空から何故か降って来た海産物を的確に、平等になるようにと苦慮しながらも民に配った。一国の王子が自ら魚の保存食を作ったと。ジョン王子に抑えつけられていたのでしょうね」


 みにくい姫と流れ星と同じだ。真心には真心を返す。シュナと手を取ろうと決意したシャルルには、アシタカは信頼を寄せる。これは、そういう意味の言葉だ。


 誰がこの流れを考えた?台本は誰が書いた?


「さて、グスタフ王。内乱のところ申し訳ないが実に前向きで素晴らしい、それも僕が好きな意見が飛び出した。シャルル王太子とシュナ姫は既に話し合いをしていた。グスタフ王も当然参加していましたね?二人とも未熟な身なので王にいしずえとなってもらうと申していましたが」


 アシタカが優しい笑みを浮かべて、目に嫌悪をたぎらせてグスタフに近寄った。


「知らん。これは何なんだ⁈シュナが王位を奪うという筋書きだろう⁈何だこれは、何のために⁈」


 セリムはグスタフの発言に呆れた。セリムは初対面の時にきちんと話をした。何の為にも、今アシタカが話した。


 国を乗っ取りに来たのではなく、正しい王として君臨しろというのがアシタカの要求だ。


 ティダの目的は不穏因子を減らすだけではなかったのか。第一軍、第四軍と忠義厚い主軍で鎮圧に向かわせる。強制的に王家一丸となれというティダの陰謀にして後押し。今、少なくともシャルルとシュナに従う軍は鎮圧の命に従う。後ろに報復戦争をちらつかせるアシタカがいるから、不服な者でも従うしかない。それが伝わるかが問題だ。


 ティダもシュナも互いを信じた。アシタカはティダから話を聞いていたようなので、この流れは仕組まれたものだ。本来はシュナが行う事だったこと。


「ふふ。やはりその目。ティダは本気で内乱を自分の手で鎮圧するつもりですよ。反対されるのが分かっていて、勝手に動いてわざと起こしましたから。だから私は考えた。必死に。ティダも私が考えると信じてくれた。ならば応えるまで。盟友を戦死させる訳にはいかない。夜な夜なアシタカ殿にも相談してました」


 シュナが小声で、しかしシャルルには聞こえるくらいの大きさの声で話した。シャルルが目を大きく見開いた。


「シュナ姫、私全然分からないの。ティダ師匠は大丈夫なのね?」


 秘密の話というように、ラステルがシュナに耳打ちした。シュナがシャルルと目配せして、シャルルが頷いた。兄と妹が手を取り合うというのは、その場の誰もが理解したと伝わる。


 グスタフだけは分からないというように、視線を彷徨さまよわせて疑惑の目を子ども達に向けた。


 セリムは人を見る目が足りないかもしれないと、反省した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る