第2話 小さな勇者
「……あれ?」
しかしそこには誰もいなくて……
男たちは
その間に再び声が
「さぁ、ここから先は、勇者の時間だッ!」
いったいなにをするつもりかと、男たちは
「上ですリーダー!」
男の一人が
その声に視線を上げると、少年がいた。
建物の上に、少年がひとり立っていた。
動きやすそうな長ズボンのベルト部分には二本の剣を差し、軽く広げた右手をビシッと男たちに向けて
男たちは
なにをされてもいいように、全身を
それに少年はにやりと笑い、
「さぁ、いまのうちだお
「え? ……あっ!」
男の力が
「なっ!? くそ……追うぞ!」
「はい!」
「りょーかいっす!」
男は一瞬目を見開くも、すぐさま指示を出し少女を追いかけようと、
「ふっ……させると思ったかい?」
少年が笑った。
それはありえないことだった。
自殺行為とも呼べる
少年が立っていた場所は五階建ての建物。
地面からはゆうに少年の身長の十倍ほどの高さがある。
とてもじゃないが無事ではすまない。
しかし少年は
傷もなければ
そんな少年は
それだけでわかった。
その身のこなしだけで、理解した。
こいつはただ者ではないと。
だから、
「……テメェ等はあいつを追え。俺はこいつをやる」
男は表情を変え、ゆっくりと
二人はその
「いやいやいや! ちょっと待って待って!」
少年がありえないものを見たとでもいうように目を見開き、あせったようにそれを止めた。
二人は
「な、なんすか?」
「
それにますますありえないといったように、
「え? え? わかんないの? だってこれあれじゃん。
「……だから?」
「大人しくあの子を
キリッとした決め顔で答える少年に、男たちはげんなりと顔をしかめ、
「あ、あ、大丈夫だよ? 諦めるなら見逃してあげるし」
その反応を失望とでも思ったのか、
「…………リーダー、彼女を見失いました」
「たぶん
「あー……ったく、くそが。勇者ごっこは
「うっす」
「
三人は
「あ、ちょっ、だから待ってってば」
バッとその前方に通せんぼする形で少年が割り込んだ。
少女を逃がしたというのにまだ解放しないのか。
いい加減にしてくれよ、と男は
「るっせぇな、わかったよ。そんなに痛い目みてぇってんなら相手してやる」
それに少年は
「ふっ、ようやく
「マジうぜぇ」
決め
そして思わず手が出てしまった男のことを、いったい誰が
男の拳は
「してあげようじゃないかッ!」
しかし、少年は一切のあせりも見せずに決め台詞を言い切ると、その一撃をしっかりと見据えた。
つまりは
その動きが。
その
そしてそれだけの力を持った少年はいとも
少年は思いきり吹っ飛ばされて壁に
「……弱いっすね、こいつ」
「
あきれたように言う二人。
リーダーの男は
「……だと、いいんだがな」
ぽつりと呟いた。
それに二人は怪訝な顔をするが、男はそれを置いてさっさと歩き出してしまう。
顔を見合わせて首をかしげる二人だったが、こういうときは聞いても答えないし、考えたところでわかりはしないと割り切り、その背中についていく。
三人の足音が遠ざかり、表通りの
「……あの、大丈夫?」
と、逃げたはずの少女が、少年の
心配そうに声をかける少女に気づくと、
「ん? ああ、大丈夫だよ。ちゃんと急所は避けたから」
なんて、少年は
「……にしても、こっち戻ってきたんだね。君って
「あ、えっと……少し心配で、向こうの方まで回ってちょっと様子を見てたの」
「ふーん、そうなんだ」
言いながらその方向へ目を向けてみれば、
あそこまで道を引き返してから
それには
もしそれが原因で追われていたとしたら、悪人はこっちだった可能性もある。
しかしやってしまったことは仕方がない。
あの一連の流れはすごく勇者っぽかったんだもの。
だから勝手に
なんて自己
「……ねぇ、本当に大丈夫?」
と、少女が
考え込んで少し
少年はなんでもない、気にするなと言うように、ひらひらと片手を振って笑う。
「大丈夫だって。ちゃんと急所は避けてたし、当たる直前身体引いたから」
「それ、さっきも気になったんだけど……急所を避けたっていうのは、もしかして……」
「勇者ってのは、
「え? それってやっぱり……」
わざと殴られて、やられたふりをしていたということだろうか。
しかもあの一瞬で攻撃を見切り、急所を避けた上で。
そんな
少女は驚きに目を丸くすると、何事か考え込むように固まり、
「さって、あいつらもどっか行ったし、僕もそろそろ行こうかな」
と、少年は頭の後ろで手を組み、くるりときびすを返した。
それで我に返った少女はキラッと、ほんの一瞬だけ
「あの!」
「うん?」
少年が振り返る。
少女はにっこりと優しく
「もしお時間よろしければ、なにかお礼でもぉ……」
それに少年はカッコつけるように、
「ふっ、あいにくだがお嬢さん。勇者ってのは見返りのために動くものじゃ――」
しばしの
「……ゆ、勇者ってのは――」
ぐー……と、再び間の抜けた音が鳴り……
それに少女はふふっと楽しそうに
「じゃあ、なにか食事でもご
「…………お願いします……」
少年は
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