第一章

「………うーん。ここのはずなんだけど…」

「お嬢。迷ったんじゃないか?」

「ちょっと、タオ兄!変なこと言わないでください。」

「シェインは、怖がりだ…」

「新入りさんはだまっててください。」


『調律の巫子』一行が沈黙の霧を抜けると、そこは__


「しかし、これはいくら行っても白いわね。」

「そうですね。白いですね。」

「ここで本当に合っているのかしら…」

「ここでも、あの方向音痴が…」

「エークースー!?」


 そう。どこまでいっても白い世界なのだ。


 と言うか、僕達は、視認することができない世界なのだ。


 今は、レイナのお陰で、先に進めているわけだけど……


「……いたっ!もう、全然見えないじゃない!」


 レイナはこんな感じであてにならない……


「………エクス。いま、あてにならないって思ったでしょ。」


 ……バレてた。




 ウェーン ウェーン


「ねぇ、レイナの姉御。」

「私も、聞こえたわよ。」

「俺も聞こえたぜ。」


「ちょっと、行ってみよう!」




 パタパタパタ


 鳴き声のする方に行ってみると……


「ヴィ、ヴィラン!?」

「それにしても、あの子……」

「とても危険ですね。」


 ヴィランに囲まれている女の子を見つけた


「ざっと見積もって、敵の数は10匹くらいよ……」

「じゃあ、さっさと片付けようぜ!」


 タオのその一言で、僕達は、目の前のヴィランに突っ込んでいった。


 僕は、ジャックに。

 レイナは、シンデレラに。

 タオは、ジャンヌダルクに。

 シェインは、赤ずきんに。


 僕とレイナとタオは前衛。

 シェインは後衛だ。


 ザシュッ ザシュッ


「………ふぅ。とりあえず、こんなもんかしら。」


 レイナが一休みしていると……


 ザクッ


「うっ!……まだ、ヴィランがいたの!?」


 それは、白いブギーヴィランだった。


「………お嬢。これは、ヤバイぜ。」

「……シェイン達、囲まれています。」


 絶対的ピンチな状況になってしまった……


「大丈夫!一気にいこう!」


 ……そして、また僕達は、目の前のヴィラン達と戦い始めた。





「………やっ、やっと終わりましたねぇ~。」

「お疲れ。シェイン。」


 タオがシェインの頭を撫でる。


「………ちょっと、タオ兄。何するんですか。」カァー

「悪い。悪い。ちょっと、手が届きやすい位置に頭があったもんだから……」

「もぅ。そういうところ、タオ兄の悪い癖ですよ。」


「シェイン……」

「な、なんですか?新入りさん。」

「顔……赤いよ?」

「なになに?エクス。……あっ、本当に赤い………」



「も、もう!二人とも黙っててくださいー!」



「ははは。ごめん。………そう言えば、あの女の子は……」


「もう、こっちで保護してるぜ。……と言うか、シェインをからかうなよな……っと、どうしたのか?シェイン。」


 ニマニマニマニマニマ


「………なんでもないです。」


 ニマニマニマニマニマ


 シェインがタオに抱きついたところを、僕とレイナはにまにましながら見ていた。


「………あのぉー。」


 女の子が話しかけてきた。


「あっ、ごめんなさい。……あなたは?」


「あ、申し遅れました。私、シェルって言います。先程は、助けていただき、ありがとうございます。」


「シェル……ね。僕は、エクス。そして、こっちが……」

「レイナです。宜しくね。」


「そして、俺がタオで、」

「シェインがシェインです。」


「ふふっ。皆さん。宜しくお願いします!」


 そして、僕達は、歩き始めた。


「そう言えば、シェルって、何であそこに居たの?」


「あ、あぁ。何か、いつの間にかあそこに居たんですよね。分かりませんけど。」


「あ、あ!でも、この世界のことなら知っていますよ!」


「嘘!?」「マジか!?」「本当ですか!?」「嘘じゃないわよね!?」


 一斉にシェルを攻め立てる。


「ほ、本当…………です………」


 そうして、彼女は柱のあるらしきところに背を預けて話始めた……


「ここは……なにもないところなんです。」


「でも、色々なことが起こります。」


「ある日、人ができました。」


「ある日、自然ができました。」


「ある日………物語ができました。」


 そう言った後、シェルは言葉を濁す。


「ですが……………あの……その……何と言っていいか………」




「もう、いいよ。シェルだって、言いたくないんじゃない?本当は。」


「エクスさん………」


「まだまだですね。新入りさん。」

「シェイン………じゃあ、何なの?」


「もしかしての話ですけどね………もしかして、シェルさん、あなた………」


「待って!くだ………さい……自分で……言いますから………」


 シェインがなにか言おうとしたことを、シェルは止めた。


「シェル…君はいったい………」


「私は…………『空白の書』の持ち主なんです。」


 シェルが思い口を開けた。


「だって、この世界に生まれてきたすべての人が、この運命の書を貰いますよね……」


 そう言って、シェルは自分の運命の書を僕たちに見せた。


 中をめくってみると……


「……一面…空白………」


 本当に、空白の書だった。


「………だから、私、何も出来なくて……シェルって名前も自分でつけたし……でも、物語が終われば、みんな私のことなんて忘れて、またやり直しで………そんなの嫌だから、思いきって、この物語の中から飛び出してみたんです!」


「で、進んでいたら、ここについたと………大変だったな。俺もその気持ち、よくわかるぜ。」


「あなたに何がわかるって……………え?」


 タオが自分の運命の書をシェルに見せた。


「……………あなたも……なんですか?」


「僕たちもだよ………」


 僕とシェインとレイナも自分の運命の書をシェルに見せた。


「そう………だったんですか。」




「とりあえず、出口を探そうよ!ここが本当に想区なら出口が必ずあるはずだよ!」


「………でも、私が探したときは出口なんて…………」


「……だから探すんですよ。シェルの姉御。」

「ほら、立って!行くわよ、シェル!」


「…あっ、シェイン。僕のことも名前呼びで…」

「嫌です。」


「……まっ、とにかく行こうぜ!」


 そして、僕達は、出口を探し始めた。


 だが、それは、地獄への扉を探すのと同じことかもしれないと、この時、タオは思っていた。

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