本当の気持ち
次の日。
「渚、足大丈夫なの?」
「ちょっと痛いけど平気。大丈夫だよ」
前日の一件で足を痛めてしまった渚。
それでも普段通り学校に行こうとする娘が心配な母。
「今日1日休んだら?」
「大丈夫だよ」
「学校まで送ろうか?」
「大丈夫だから」
「渚が大丈夫って言うなら、別にいいけど…」
「行ってきます!」
渚はいつものように学校に向かった。
きのう母親には、デート中に転んで痛めたと、嘘をついた。
学校がある駅に着くと純が待っていた。
「おはよう」
と純が言うと渚も
「おはよう」
とあいさつをした。
「足大丈夫?」
「ちょっと痛いけど平気」
「よかった…そろそろ来るかな?って思って待ってたんだ」
純は、渚を待っていてくれていたようだ。
「わざわざありがとう」
渚は純にお礼を言った。
「カバン持つよ」
「ありがとう」
きのうのこともあり、足を痛めている渚を心配して待っていた純の優しさに、渚は涙が出そうになった。
学校に着き、渚のクラスの前に着き別れた。
「止めるってどういうことよ!何であんなロボットをかばうわけ?」
「やり過ぎだと思ったから」
「やり過ぎ?ロボットにはあれぐらいがいいのよ。もうちょっと痛めてもよかったぐらいなのに…」
今は放課後、大和と女子3人組が話していた。
「3人はさ、何でそんなに青野さんのことが嫌いなの?」
「キモイから。ウザイから」
「青野さん、優しくていい人だけどなぁ」
3人はその言葉に、嫌な顔を浮かべた。
「青野さんって、真っ直ぐ過ぎるぐらい真っ直ぐでピュアで優しいんだよね。あんな真っ直ぐでピュアな子に会ったのは初めてってぐらいや。オレ、青野さんと接していくうちに、あんなに真っ直ぐな子を傷つけようとしている自分が醜く感じた。だから計画をやめようと思った。でもお前ら3人に逆らえなくて実行して。今すごい後悔しているよ。」
「ちょっと待って!あの計画、あたしたちのせいにするつもり!?」
「そのつもりはない。オレも一緒にやったから共犯だよ」
3人は不満気な顔をしている。
「青野さんは、人のこと悪く言わない。多分、辛い気持ちや痛みが分かるからだろうな。でもお前らは、人のことを平気で悪く言う。そこが青野さんとお前らの違うところ。お前らの心が黒なら、青野さんの心は白って感じ。お前ら人を見た目で判断するのはやめな。いつか自分にも返ってくるぞ!」
「大和くんに頼るんじゃなかった…。もう勝手にしろ!」
3人は呆れながら去って行った。
3人に逆らえなくてやりました…なんて、された側からしたら、ただの言い訳にしか聞こえないだろうな…
「渚ちゃん帰ろう!」
隣のクラスの純が、渚のクラスに顔を出した。
「今日クラスの稲本が、イスから机ごとひっくり返って。数学の授業中突然だったからビックリしたよ」
たわいもない話をしながら歩く。
駅に着く。
ホームが違うため、いつもならここで別れるのだが
「足大丈夫?よかったら渚ちゃんの地元の駅まで送ろうか?」
という純。
「大丈夫だよ」
純は心配性なのか?
ただ、大切な妹を亡くしたこともあり、大切な人を守りたいという気持ちが人一倍強いのだろう。
「本当は今日の朝のも、きのうメールか電話で言おうと思ったんだけど、大丈夫だよって断られそうな気がして。だったら、言わずに待ってたら断られないかな?って」
「たしかに、言われたら断ってたかも…」
「ごめん」
「でもありがとう」
そして別れた。
次の日。
「青野さんごめん」
大和が渚を呼び出し、デートの日のことを謝罪する。
「せっかくのデートを台無しにしたうえに、青野さんを傷つけた。それに、好きでもないのに告白して青野さんの純粋な気持ちを踏みにじった」
「大和くんの真剣な気持ちが嘘だって知ったとき、心苦しかった。信じた自分はバカだって。でも、大和くんと過ごした時間は楽しかった。だから余計苦しかったよ」
「最初はあの3人と一緒、青野さんのことが好きじゃなかった。でも一緒に過ごすうちに好きになって、人を見た目で判断する自分が醜く感じた。だからあの3人から手を引こうと思った。でも逆らえなかった。こんなこと言い訳にしか聞こえないし、謝っても許してもらえないのは分かってる。でも謝りたかった」
「本当のこと言うと、傷ついた。でも、大和くんが最後に言ってくれた、渚ちゃんの優しさ嬉しかったよって言葉は大和くんの本心だと思ってるし、すごく嬉しかった。本当はこんなことしたくなかったのかな?って思った。時々辛そうな表情が見えたし。だから最後のあの言葉が出たのかな?とも思った」
「何で青野さんって、そんなに人の気持ち汲み取れるわけ?」
「辛い気持ちや痛みをずっと抱えて生きてるからかな?」
そう言って少し深呼吸をする渚。
「大和くん、これからも変わらず友達でいてくれる?」
渚の思いがけない一言に驚く大和。
「何でオレのこと許せるわけ?あんな酷いことしたのに…」
「さっきも言ったように、渚ちゃんの優しさ嬉しかったよって言葉は大和くんの本心だと思ったし、嬉しかったから」
その言葉に大和は、ここまで純粋な青野さんの気持ちを傷つけようとした自分を改めて恥じた。
そして大和は、あの3人とキッパリ縁を切って離れることを心から誓うのだった。
「聞いたよ。大和のこと許したんだって?」
「うん」
「何で許したの?あんな酷いことされたのに」
「たしかに、酷いことされたし傷ついたよ。でも大和くんが最後に言った、渚ちゃんの優しさ嬉しかったよって言葉は大和くんの本心だと思ったし嬉しかったから。大和くんも大和くんで辛かったと思うし」
「そうやって簡単に許すわけ?渚ちゃんは優しすぎるんだよ!」
思わずキツく言ってしまった純。
「大和が言ってた。謝っても許してもらえない覚悟で謝ったら許してくれて、ビックリしたって」
「たしかに、大和くんあたしにも似たようなこと言ってたけど…」
「あんまり優しすぎると、傷つくだけだよ」
「あたしは純くんとは違うの!今まで怒ったことないし、言いたいことあっても言えない。一緒にしないで!」
そう言って涙を流す渚。
純は渚を傷つけるつもりはなかったのに、傷つけてしまった。
その日2人は、それ以上話すことなく、一緒に帰ることもなかった。
「あれっ!?青野さんと帰らないの?めずらしいね」
と言って後ろから話しかけてきた大和。
「渚ちゃんのこと傷つけてしまった…」
「あれやろ?オレのことでやろ?」
「分かってるんだ…」
「許してもらっといて言うのもやけど、青野さん優しすぎるからなぁ」
「渚ちゃんのいいところは優しいところ、悪いところは優しすぎるところ。優しいところがいい部分であり悪い部分でもあるんだよね」
「いつか傷つくぞ…とかでも言うたんだろう?」
大和が、ズバリ的中ぐらいの勢いで言う。
「うん…そしたら、あたしは純くんとは違うの!って言われた」
「青野さんの繊細な部分をエグっちゃったわけね」
「エグったって言い方やめろ!グロく聞こえる。触れたって言えよ」
「ごめんごめん」
今日は大和と2人で帰ることになった。
「2人で帰るの久しぶりだな」
「そうだっけ!?」
「純、彼女ができてからは彼女と帰ってたし、彼女と別れてからは妹さんのことがあって一匹狼みたいな感じで近づくなオーラぷんぷんだったから」
「そんなにオレ尖ってたんだ…」
そう言って笑う純。
「同じ高校に入って、高校生になってから変わったのを見てビックリしたもん。変わったっていうより、前に戻ったってのが正しいけど、嬉しかったよ。これも青野さんのおかげだね」
渚と出会ってからの純は、前のように明るさが戻っていたようだ。
純はそんな自分の変化に気づかなかったのか、驚いた。
地元の駅に着くと大和がいきなり
「マクドに行こうぜ!」
と言い出した。
「いきなりだな」
「何か今急に、ポテトが食べたくなった」
「意味分かんねー」
そう言いながらもマクドに入り、2人でコーラとポテトを頼んだ。
「本当のこと言うと、大和があの3人に後悔していることや縁を切りたいってこと言ってるのを聞いた。正確には聞こえたって感じだけど」
「そっか…」
「辛かったんだろうなと思ったよ。だからって許されることじゃないけど…」
「それはオレが1番感じてるよ」
本当に反省しているのか、申し訳なさそうに言う大和。
「明日からどうしようかな…渚ちゃんとケンカしちゃって気まずいな」
「お前と青野さん、ケンカしたの初めてだろ?」
「そうだけど…」
「青野さんなら、ちゃんと謝ったら許してくれると思うよ」
「だといいけど…」
「ちゃんと本当の気持ち伝えないと」
「本当の気持ち?」
「お前ら2人見てると、お互い想ってるのにその気持ち押し殺してる感じで、見ててモヤモヤする。青野さんのこと好きなんだろう?」
「好きだけど…」
「けど…何?好きなら好きって言わなきゃ!言わないといつまで経っても気持ち伝わらないぞ!2人の関係をメチャクチャにしようとしたオレが言える立場じゃないけどさ」
大和の言葉に、純は渚に対しての本当の気持ちに気づいた。
「もうすぐ冬休みでクリスマスもあるし、チャンスだぜ!」
そう言いながら、ジングルベルを鼻歌で歌い出す大和。
渚ちゃんの言う通り、大和は後悔していたのかもしれない。
だから最後に本当の気持ちを言った。
その本当の気持ちに渚ちゃんは気づいたのかもしれない。
(そろそろオレが本当の気持ち言う番かな…)
次の日。
「渚ちゃん、きのうはごめん」
純は、きのうの言い過ぎたことを謝罪するため、渚を呼び出しそう謝罪した。
「あんなこと言うつもりなかった。言い過ぎた。ごめん」
「純くんは、あたしのことを思って言ってくれた。たしかに純くんの言う通り、あたし優しすぎるのかもね」
「本当のこと言うと、大和が女子3人に後悔していることや縁を切りたいってこと言ってるの聞こえてきて聞いちゃったんだよね。だから渚ちゃんの言ってること分かる気がした。だけど渚ちゃん優しいから、その優しさでいつか脆く崩れる気がして…言い過ぎた。ごめん」
「ううん。あたしの方こそ、心配させちゃってごめんね」
お互い思うあまり起きたケンカなのかもしれない。
「純くん、ありがとう」
無事仲直りすることができた。
そして帰り
「24日のクリスマスイブって、何か予定ある?」
純は、24日にデートへ誘うためそう質問する。
「ないよ」
「じゃあ、24日僕とデートしてくれませんか?」
まるでキザなセリフのように、渚をデートに誘う純。
「はい」
渚はOKをした。
そうこうしているうちに冬休みになり、12月24日を迎えた。
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