幸せって何ですか?

「渚ちゃんって兄弟とかいるの?」

屋上で2人で弁当を食べていたときに、突然そんな質問をする大和。


「一人っ子だよ。桑原くんは?」

「ちょっと待って!桑原くんって呼び方は、カップルって感じがしないんだけど」

「ごめん」

そしてさっきと同じ質問をする。


「…大和くんは?」

「オレも一人っ子だよ」

「大和くんって一人っ子なんだ。てっきりお兄ちゃんとかいるのかと思った」

「オレ昔から一人っ子って言うと、お兄ちゃんいるのかと思ったって驚かれるんだよね。いるように見えるのかな?」

見える見える!と頷く渚。


「一人っ子って今でこそ慣れてるけど、小学生の頃とか小さい頃って家に帰ると1人だと寂しくなかった?」

「寂しかった。分かる分かる!」

お互い一人っ子だということもあってか、その話しで盛り上がる。


「友達とかが、兄弟ゲンカの話しをしてるのを聞いているとうらやましかったなぁ」

「あと、小さい頃ぬいぐるみとかに話しかけたりしなかった?」

「1人のときにだろ?オレ、ウルトラマンが好きでウルトラマンに話しかけたりしてたよ」

「兄弟欲しいって思ったことある?」


「あるよ。オレ小さい頃、おもちゃ屋さんに行くってなると喜んだもん。おもちゃ買ってもらえるってのもあったんだろうけど、弟買ってもらえるって思ってた。弟=おもちゃ屋さんに売ってると思ってたからな。行くたびに弟買ってっておねだりして、オカンを困らせたらしい」

笑いながら聞いている渚。


ふと目に入ったお弁当を見た大和が

「オレら、話しに夢中になりすぎて弁当減ってないやん!」

と笑いながらツッコむ。


話しに夢中になっていた2人は、箸が止まったままだった。

2人は急いでお弁当を食べ終えると、教室に戻る。


教室の近くで渚が

「トイレに行ってから戻るから先に戻ってて」

と大和に伝え、大和は先に教室に戻った。


教室に戻ってきたのが2人ではなく大和1人だと見えて近寄ってきたのは、あの女子3人組。


真由が

「青野さんどう?」

と聞くと

「好きですって言えばコロッといくと思ってたよ」

と答える大和。


そこには、さっきまで楽しそうに渚としゃべっていた笑顔の大和の姿ではなかった。


「あんなに断られると思わなかったから、つい必死になってもうたわ」

「大和を振るなんていい度胸をしてるよ。ロボットのくせして。あんな奴、学校に来なくていいのに」

美香が楽しそうにそう言った。


「オレも最初はそう思ってた。ちゃんと向き合うまではね。でも…」


そのとき、渚が教室に戻ってきた。

渚の姿を見かけた大和は、言いかけた言葉を飲み込んだ。


でも…のあとを何て言おうとしたのか分からない3人だったが、真由が

「まさか、青野さんのこと庇おうなんてマネはしないでよね」

そう一言言って、大和の肩を軽くポンポンと叩いた。

そして3人はそれぞれの席に戻った。


3人は、青野渚という人物がこの学校にいる限り、学校生活は楽しくないと思い込んでいた。


友達同士でグループを組むときに一緒になることもなければ、まともに話したことさえないのだが、渚のことを見た目だけで判断し、嫌っていた。


その見た目から3人は渚のことを「ロボット」と呼んでいた。

クラスの人たちが渚のことをロボットみたいだと言うのは、この3人がきっかけのようなものだった。


席に戻った真由は、大和の思いがけない一言にイラ立ちながら

「ロボットのくせに、調子に乗ってんじゃないわよ」

と独り言をつぶやくのだった。


渚の元に駆け寄った大和は

「ただいま」

と言ったのだが、それに笑う渚。


「何笑ってんの?」

「ただいまじゃなくて、おかえりだと思って…」

「…あっ!…」


間違いに気づいていなかった大和は、渚に指摘されて間違いに気づき、恥ずかしそうにポリポリと頭をかいた。


さっきまでの笑顔とは違いとびきりの笑顔の大和と、幸せそうな顔をしている渚の2人を自分の席から見ていた真由は、さっきの大和の思いがけない一言を思い出したのもあり、さらにイラ立ちを覚えるのだった。


放課後…


誰もいなくなった教室に3人組だけが残っていた。


真由が

「あのロボット、幸せオーラ放ちやがって。大和くんは大和くんで、青野さんを庇うような言い方し出すし」

とイラ立ちをぶつけるように話す。


「まさか…大和くん、青野さんと一緒にいるようになって本当に好きになったんじゃ…」


そんなつぐみの一言に

「そんなことされたらこっちが困るわよ!」

とキレ気味に言う真由。


「でも計画を実行するにしても、大和くんが実行に移してくれないと…」

「無理ね…」

何かを企んでいる様子の3人。


大和と一緒に3人は、一体何を企んでいるのか…?

そして大和が告白してまで渚といる理由とは…?


そして次の日。


「そういえばオレたち、付き合ってまだ1度もデートしてないよね?今度の日曜日デートしない?」

大和は渚をデートに誘う。


「あたしとデートだなんて、あんまり楽しめないと思うよ?ゆっくりしか歩けないし」

と誘われて嬉しい半面、消極的な渚。


「何言ってんの!好きな人とデートだよ?楽しくないわけないじゃん!オレ渚ちゃんとだったら、どんなデートでも楽しいと思ってるし、楽しみだよ。デートしよう!」


そんな大和の一言に

「うん」

と答える渚。


2人は教室に戻った。

大和は教室に戻ると真っ先に3人組の元へ行く。


「今度の日曜日にデート。1時に丸山倉庫に集合!」

3人組にこっそりと伝える大和。


その日の夜大和は渚に


件名:渚ちゃんへ

今度の日曜日のデートだけど、

12時半に三ノ宮駅に集合でいいかな?


とメールを送った。


すぐに、OK!と返事をした渚。


日曜日のデートは渚にとって初めてのデートということもあり、渚はワクワクするのだった。


しかし、この渚にとって初めてのデートは、最悪なデートの幕開けとなるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る