好きになるということ
そうしているうちに気づけば文化祭1日目がやってきた。
純は渚のクラスが何を歌うのか楽しみだった。
最後まで教えてくれなかったからだ。
そして、1年5組の合唱の出番がやってきた。
流れてきたのは…
「たとえばきみがーきずついてーくじけそーになーったときは…」
ビリーヴ という曲だった。
純にとってこの曲は、亡くなった妹を思い出す曲だった。
1年5組の出番が終わり、ちょっと間して休憩の時間になった。
渚は純の元に行った。
「純くん。合唱どうだった?」
純を見ると泣いたのだろう、涙の跡があった。
「もしかして泣いたの?」
そう渚が聞くと
「渚ちゃんのクラスの合唱って、ビリーヴ だったんだな」
と純。
「ビリーヴ聴いてたら妹のこと思い出したよ」
「妹さんのこと?どうして?」
「オレの妹が耳悪いのは知ってるよな?それでも妹は、家でよくしゃべる子だった。でも、イジメられるようになってからは家でほとんどしゃべらなくなって。それでも毎日のようにビリーヴ って曲だけは口ずさんでた。だからこの曲聴くと思い出すんだ…って、何言ってるんだオレ…」
そう言うと微笑む純。
「そろそろ気持ち切り替えないと、休憩終わって後半に出番が待っているからな」
そう言うと気合いを入れ
「行ってくる」
と言って行ってしまった。
そしてしばらくして1年6組の出番が始まった。
渚はワクワクしながら舞台を見つめた。
出てきた純は前の方で洋楽の曲に合わせて踊っていた。
ちょっとして男子チームと女子チームが入れ替わり、純の出番は終わった。
文化祭1日目が終了した帰り、純が渚に
「オレたちのクラスのダンスどうだった?」
と聞いた。
「よかった。めちゃくちゃかっこよかったよ」
と渚は褒めた。
恥ずかしそうにテレる純。
「オレが前で踊るなんて思わなかっただろ?」
「うん。ダンス得意だったんだね」
「自分では得意だと思ってなかったんだけど練習中に、上手いから前で踊ってくれって言われて。前で踊ることになったんだ」
テレながらそう言う純に
「かっこよかったよ」
ともう1度褒める渚。
やはりテレる純だった。
文化祭2日目。
お互い自分のクラスの出番が終わり、一緒に回ることに。
昼ご飯を食べたあと向かったのはお化け屋敷。
お化け屋敷だと分かった瞬間、お化け屋敷はちょっと…なんて顔をする渚…ではなく純。
大丈夫!なんて平気な顔をして入ろうとする渚と、ビビりながらも男らしく!なんて顔をして入る純。
結果は…ギャー!という純の声が響き渡るのだった。
「本当に苦手だったんだね。ごめんね」
お化け屋敷を出るなり謝る渚。
苦手そうには見えなかったため、本当に苦手だとは思わなかったのだ。
「純くんの苦手なもの知っちゃった」
そう言うとクスリと笑う渚。
「何笑ってんの?」
「純くんにもこんな一面あるんだなぁって思って」
「ごめんな。こんな姿見せちゃって」
申し訳なさそうに謝る純。
そのあとも
「オレカッコ悪りぃ。オレ情けねぇ」
と叫び、何度も謝る純だった。
こうして文化祭はあっという間に終わり、普通の学校生活が戻ってきた。
「おはよう」
偶然校門で会った2人は一緒に教室に向かいクラスが違うため別れた。
そして渚が教室に入るなり駆け寄ってきた大和。
「桑原くんおはよう」
そう声をかけた渚に大和が
「ちょっと話しがあるんだけど…」
と言い呼び出した。
「やっぱりオレと付き合うのは無理かな?」
「ごめんなさい。やっぱり桑原くんには迷惑かけられない」
「それって、純にも同じこと言えるの?」
「えっ!?」
突然の言葉に驚く渚。
「迷惑かけられないって、オレのこと思って言ってくれてるんでしょう?だったら純にも同じこと言えるわけ?だって純のこと想ってるんでしょう?だったら言えるよね?桑原くんがあたしといたらって思うなら、純だって同じだよ?よく一緒にいるけど、それって純に迷惑かかってることになるよね?だったらオレに言ったことと同じこと、純に言えるよね?」
「…あの…それは…そのっ…」
突然の言葉に完全に困った様子の渚。
そんな渚に大和は
「オレに言ったことと同じこと純に言えるんなら、オレ渚ちゃんのこと諦める。でもそうじゃないなら諦めない」
と言うのだった。
力強い目差しの大和。
渚は恐る恐る
「桑原くんは、あたしといて迷惑じゃないの?」
と聞いたのだが
「好きだもん。迷惑なわけないじゃん」
という答えが返ってくるのだった。
「…あたし、桑原くんのこと信じてみる」
「ということは…」
「よろしくお願いします!」
渚に対してまっすぐな大和に、渚は信じることに決めたのだった。
昼休み、渚がお弁当を持って純のところに行くと、純から
「おめでとう!」
という言葉が。
「大和と付き合うことになったんでしょう?大和から聞いた。あいつ嬉しそうだったよ。大和いい奴だし、渚ちゃんのこときっと幸せにしてくれるよ」
あのあと大和は、そうとう嬉しかったのか純に、渚ちゃんと付き合うことになったと報告していたのだった。
「こうして2人で弁当食べるのも最後かぁ」
屋上で弁当を食べていると、突然そう言い出した純。
「どうして?」
と聞く渚に
「だって渚ちゃんは、今日から大和と付き合うんやで?これからは大和と2人で弁当食べるんや。オレ2人の邪魔したくないし」
3人で食べるもんだと思っていた渚は、不思議そうな顔をする。
「大和に怒られるん嫌やしなぁ」
純は笑顔でそう言った。
「渚ちゃん。一緒に帰ろう!」
授業が終わりさようならをしたあと、渚の元に大和が駆け寄ってきた。
「いいよ」
と答えた渚に
「…あと、純も…」
と付け加えるように言う大和。
純を呼びに行こうと教室を出た瞬間、渚のクラスの前にいた純。
「言うの忘れてたけど、今日から渚ちゃんは大和と2人で帰るんだよ。2人の邪魔したくないし。ほらっ、恋人同士で一緒に帰るとさらに愛が深まるっちゅう話しや!それじゃあ、さよならー!」
2人の邪魔したくないからと、遠慮するように笑顔で元気に答えて去って行った純。
まるでさっきの話しを聞いていたかのように。
「そういうことだし、2人で帰りますか!」
そう言うと歩き出す大和。
その後をゆっくりと歩き出す渚。
初々しいカップルみたいに、何を話したらいいか分からないといった様子の2人。
最初はスタスタと渚より速く歩いていた大和だが、途中振り返ったときに渚のゆっくりとした足取りを見て、渚の足取りに合わせるように歩き始めた大和。
そのまま2人は駅に着き、ホームが違うため別れた。
次の日から2人は一緒に弁当を食べたり、一緒に帰るようになった。
そしてそこには、いつも当たり前のように渚の隣にいた純はいないのだった。
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