胸の痛みの先にある想い
渚に向かって歩いて来た人物は渚に
「初めまして…ではないかな?」
と声をかけてきたのだった。
えっ!?誰?という顔をする渚に相手が
「同じクラスの桑原大和」
と自己紹介をし、あぁ!といった感じでうなずく渚。
「オレってそんなに影薄いかな?そんなつもりないんだけど…」
わざとらしくショックな顔をする大和。
「青野渚ちゃんだよね?知ってるよ。そういえば今日、昼休みに立岡純と一緒だったよね?純とは中学から一緒で。あいつ中2のときに彼女がいてさ。中3の頃に別れて、そのすぐあとぐらいに1つ下の妹が亡くなって。それからというものあいつ、心開かなくなったみたいに彼女いなくてさ。それまではいつも彼女と一緒で見ない日なんてないぐらいだったのに。だからさ、君と一緒にいる姿見てビックリしたわけ…って、しゃべりすぎた。ごめん!」
「ただ、オレが言いたいのは、君に近づいたのは、伝えたいことがあって」
そう言うと深呼吸をする大和。
そして…
「好きです!ずっと前から渚ちゃんのことが好きです。付き合ってください」
突然の告白に何と言ったらいいか分からず、戸惑う渚に大和は
「返事はいつでもいいから」
と一言言って去って行った。
ただ呆然とする渚。
今まで悪口しか言われたことがなく、告白の「こ」の字も言われたことがない渚は、初めてのことで純が来るまで呆然と立ち尽くすしかなかった。
職員室から戻って来た純は、呆然と立ち尽くす渚に
「どうしたん?大丈夫?」
と声をかけた。
「…あっ…大丈夫!」
そう笑顔で言う渚に純が
「オレがいない間に何かあった?」
と聞くと
「何もないよ」
と渚は答えるのだった。
駅までの道を2人は一緒に歩く。
渚はさっきの告白の言葉が頭から離れずにいた。
悩んだ顔をしている渚に純が
「やっぱりオレがいない間に何かあったでしょう?」
さっきと同じ質問をする。
「何もないよ」
渚もさっきと同じ答え。
純は何度も「何もない」という渚に
「そっか…」
と言ってそれ以上は何も言わないし、聞かないのだった。
そして駅に着き、別々のホームへ別れた。
その日の夜。渚は告白の返事をどうしたらいいのか分からず、眠れずにいた。
断るにも断り方が分からなかった。
告白されたことがないため、OKをしたことも断ったこともないからだ。
悩んで断れずに、気づけば2~3日が経った。
昼休み、屋上で純と昼ご飯を食べていた渚。
こんな話しを純に相談出来ずにいた渚だったが、恐る恐る相談してみた。
「…あのっ…純くん。相談…したい…ことが」
「どうしたの?」
「あのっ…純くんって、桑原大和って人知ってる?」
「知ってるよ。だって中学から一緒だもん。大和がどうかしたの?」
「桑原くんも言ってた。純くんとは中学から一緒だって。実は、放課後に純くんを待ってた日に、桑原くんに告白されたの」
「えっ!?マジで!?」
驚いて目を見開く純。
「しかし、あの大和が渚ちゃんを好きだったなんてなぁ。全然知らなかった。それで、返事はしたの?」
「まだしてない。どう返事したらいいのか分からなくて」
「返事するなら早めの方がいいよ。長引けば長引くほど相手が諦めモードに入ってしまうから。あと、断るにもOKするにもちゃんと返事した方がいいよ」
渚は
「分かった。ありがとう」
と言った。
そして放課後、渚は勇気を振りしぼって大和に声をかけた。
「…あのっ…桑原くん。ちょっと…話しが…いいかな?…」
「いいよ」
大和は笑顔でそう答えた。
2人は教室を出て少し離れた場所に行く。
緊張して言葉が出ない渚は、下を向いて、目はキョロキョロしていた。
やっと顔を上げた渚は
「ちょっと前のことなんだけど…」
と話しを切り出した。
「好きって言ってくれてすごく嬉しかった。言われたの初めてで、言われた瞬間は信じられなくて戸惑っちゃって、何て言ったらいいか分からず返事するの遅くなった。ごめんなさい」
渚の言葉に大和は
「別に気にしなくていいよ。急に言ったのオレだし。返事は本当にいつでもよかったから。」
と優しくそう言った。
「本当に嬉しかった。でも…ごめんなさい。桑原くんとは付き合うことができない。ごめんなさい」
「それって、純のことが好きだから?」
「ううん。違うよ。確かに純くんとはよく一緒にいるけど、付き合ってるとかそんなんじゃないし」
ちょうどその頃純は、渚が告白の返事をしているとは知らず、一緒に帰るために近くで待っていて聞いてしまっていた。
渚のさっきの言葉に純は、胸がチクリと痛むのだった。
確かによく一緒にいるが、渚の言う通り、付き合っているかと言われたら付き合ってるわけではなかった。
なのにチクチクと痛む。
ちゃんと返事をした方がいいとアドバイスしたのは自分なのに…
純はモヤモヤした気持ちだけが募るのだった。
「それなら、断る理由なんて…オレはこんなにも君のことが好きなのに。純とは付き合ってないんだろ?だったらいいじゃん。どうせ純だって、君とは一緒にいるだけで何とも思ってないだろうし」
「純くんのこと悪く言うのはやめて!あたしのことは構わないけど、純くんのことは…」
「ごめん。でもオレは本気だから。また考えてよ。また返事待ってるから!」
そう言うと颯爽と去って行った大和。
ちゃんと断れば「うん。分かった」と言ってくれるとばかり思っていた渚は、ただただ驚くばかりだった。
すぐに気持ちを切り替えた渚は、待っているであろう純の元に向かおうと振り返ったときだった…
「うわぁ!びっくりした。いたんだ…」
「いたんだ…じゃないよ。結構待ったんだぞ」
振り返るといたのは純だった。
「ごめんなさい」
渚はそう一言謝った。
帰りながら渚は
「ちゃんと断れば、分かってくれると思ったのになぁ」
とつぶやいた。
「もしかして大和のこと?」
純はさっきのことを忘れたフリしてそう聞いた。
「放課後に勇気を出して呼んだの。告白の返事をしたの。ちゃんと断ったんだけど、オレこんなにも好きなのに!って言われて。ちゃんと断れば分かってくれると思ってたのに。どうしたらいいのか分かんないよ」
渚は本当に困っているのか、泣きそうになりながらそう言った。
そんな渚に純は
「大和の奴、そんなに渚ちゃんのこと好きだったのか…でも大丈夫。もう1回ちゃんと言えば分かってくれるよ。大和の奴だって、そこまでしつこくないと思うし」
と言ったのだった。
渚もそう信じて、もう1度返事をすることにしたのだった。
チクリとまた痛む胸。
アドバイスをする純自身がモヤモヤした気持ちのまま、自分の渚に対する想いに分からずにいた。
次の日。
もう1度返事をするために大和を呼んだ渚。
渚の返事はやっぱり
「ごめんなさい」
だった。
「どうして?オレのこと嫌いなの?考えてくれた?」
食い下がる気はない様子の大和に
「考えたよ」
と一言言った渚。
「桑原くんはあたしと付き合わない方がいい」
「どうして?」
「あたしと付き合うといいことなんてないから」
「そんなことない。オレは渚ちゃんが好き「よくないの!」
大和の言葉を遮るように言う渚。
「あたしのせいで他の人が傷つくのは見たくないの」
「オレは別に構わない。傷つくのが怖いと思ってるなら、今頃渚ちゃんに告白なんてしてない」
「あたしが嫌なの!傷つく桑原くんなんて見たくない。だから、ごめんなさい」
そう言うと去ろうとする渚。
そんな渚に大和が一言
「OKもらえるまで諦めないから」
と言うのだった。
中庭で話しているのをたまたま通りかかって離れた窓から見ていた純。
その後ろから3人組の女子がクスクスと笑いながらやって来た。
その3人組は、
「何見てるのー?」
えっ!?となる純に真由が笑顔で
「あの2人仲が良いんだねー。青野さんって、立岡くんと仲良しなフリして桑原くんといるんだー。最低!」
まるで今のこの状況を楽しんでいるような感じだ。
「青野さんって、本当はああいう人なのかもねー?」
そう真由が言えばつぐみが
「相手に好きだって思わせといて、本当は違う人が好きでしたーみたいなー?」
と笑いながら言う。
真由は
「そうそう!」
と楽しんでいる。
3人は
「じゃあね!」
と楽しそうに去って行った。
去って行った3人を見て純は
「何なんだよあいつら…おもしろがりやがって!」
と言って舌打ちをした。
帰り大和のことを聞いた純は
「そこまで渚ちゃんのこと考えてたなんて知らなかったなぁ。あいつがそこまでして真剣に誰かを好きになるなんて初めてかも。渚ちゃんは渚ちゃんで、自分の気持ちがあるだろうし大事だよ?だけどオレから言えるのは、大和はいい奴だし悪くないってことだけかな?」
と言った。
渚が
「分かってる…分かってるの。桑原くんの気持ちもいい人なのも。桑原くんは悪くないの。ただ、あたしの気持ちが…」
と言いそれを聞いた純は、文化祭のことを思い出し話題を変えようと
「来週の文化祭だけど、一緒に回らない?」
と誘うのだった。
喜びたいのを押さえて渚は
「あたしとなんかでいいの?あたしだとあんまり回れないし、友達と回りたいんじゃないの?」
と言ったのだが
「渚ちゃんとだから回りたいの!」
と純は答えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます