大切な出会い
私の名前は、
高校生になったら友達作るぞ、恋するぞ、とかってドキドキワクワクしながら入学したけど、気づけばクラスでイジメられるようになっていた。
朝、たまたま職員室の前を通ると担任の先生に呼ばれた。
「クラスは楽しい?」
「…はぁ…?」
「最近1人でいるのよく見るから」
「…はぁ…楽しいですけど」
本当は楽しくない。
とっさについてしまった嘘。
なんでこんな嘘をついてしまったのだろう…?
先生との話しが終わって教室に入ったら、何人かと目が合った。
「おはよう」とあいさつしてくれる人なんていない。
その代わりに、来たよって嫌な顔をされる。
いつもなら我慢するけど、今日は飛び出してやろうと思って屋上へ行こうと飛び出した。
屋上…誰もいなかった。
「はぁ…教室に戻りたくないなぁ」
だんだん涙があふれてきて止まらなくなっていった。
しばらく経って…
「何泣いてるの?」
と男子の声がした。
振り向くと1人の男子がいた。
とっさに涙をふいた。
「今泣いてたでしょう?」
「えっ…?」
「ごめん。見ちゃった」
「そうなんだ」
「何かあったの?」
「…」
「言えないことなのかな?ごめん」
「今…授業中…だよ?」
「うん。体育なんだけど、柔道嫌いだからサボった。まぁ、今右腕痛めてるんだけど、たまたまペアになった奴が柔道習ってた奴で、手加減して投げてくれたみたいだけど痛めちゃって。あとでめっちゃ必死に謝られちゃったよ」
笑いながらそう話す男子。
「…そうなんだ…」
しばらく沈黙が続いた。
男子の方が口を開いた。
「何かあったんだろう?そうじゃないと授業中に屋上にいるわけないだろうし。君って、授業とかサボりそうな感じしないし。何があったの?」
「えっ…と…」
「オレの名前は
「私は青野渚。1年5組」
「クラス隣だったんだね。オレでよければ相談に乗るよ」
「…」
「初めてしゃべった奴にいきなり相談は出来ないよね。ごめん」
「あのっ…!」
「うん?」
「謝ってばっかりだよ。謝らないで。あなたは何も悪くない」
「そうだな。あなたって呼び方はなし。純って呼んで。嫌だったら純くんって呼んでもいいし」
「じゃあ。純くんで」
「オレは渚ちゃんって呼ぶね」
チャイムが鳴った。
2人はそれぞれの教室に戻った。
教室のドアを開けた瞬間、ざわざわしていたクラスが一気にシーンとなった。
教室に入りづらかったが入った。
もうとっくに始まっているだろうと思っていた授業は、先生が用事で遅れるとかでまだ始まっていなかった。
1人の男子が「チッ!」と舌打ちをした。
聞こえたけど聞こえないフリをした。
そして6時間目が終わって帰っていると、純とばったり会った。
「友達と帰らないんですか?」
渚がそう聞くと
「オレの友達全員帰る方向が逆やねん。ほらっ、ほとんどの人はあっち方面やん。こっち方面少ないやん」
って純。
そういえばそうだなって思った。
文化部の人は文化祭の練習で忙しい10月の初め。
10月でだんだん寒くなってくる季節。
「渚ちゃんのクラスは文化祭何するん?」
「合唱。純くんは?」
「オレのクラスはダンス。クラスにダンスがめっちゃ上手い奴がいて、そいつがみんなが踊れるような振りを考えて、それをみんなで踊るねん」
「おもしろそう…」
「合唱って何歌うん?」
「ヒミツです」
「えー!気になるやん。楽しみにしてるけど。あと1つだけ言うけど、渚ちゃんとオレ同い年だし、タメ口でいいよ。敬語はなし」
「うん…分かった」
歩いていると気づけば駅だった。
ホームが違うため別れた。
自分でも不思議だった。
何でこんなにしゃべれたのだろう…と。
純くんとは、他の男子と違ってしゃべってて楽しいし落ち着くと感じたのだ。
「ただいま」
「おかえり。渚宛てに手紙がきてるわよ」
「誰だろう?」
中を見ると、中学のときの保健の先生からだった。
保健の先生にはよくお世話になったし、話しやすくて好きな先生。
「保健の高岡先生。結婚するんだって」
「30になったばかりぐらいの先生でしょう?おめでとうだね」
渚はさっそく先生に手紙の返事を書くのだった。
次の日
渚はいつものように重たい足を引きずりながら学校へ向かった。
渚は中学生の頃からちょっと足が悪く、普通の人より早めに家を出なくてはいけないのだ。
本当は学校に行きたくないが、母に心配や迷惑をかけたくないので休まないようにしている。
渚が学校に着いてロッカーを開けると、何枚か手紙が入っていた。
渚はその手紙に悪口が書いてあることぐらい分かっていた。
最近日に日にイジメがひどくなっている気がするのだ。
初めの頃は陰で悪口なんて渚が知らないだけかもしれないが、あまり聞こえてこなかったのに、最近は陰での悪口もよく聞こえてくるようになった。
渚は開けずに捨てればいい手紙を開けた。
そこには…
『消えろ!』『来るな』
などいつもと同じような言葉が書いてあれば
『足悪くて引きずってるみたいだけど、演技じゃないの?』
『足悪いらしいけど、歩き方ロボットみたいで笑える』
など足の悪口が書いてあるのもあった。
渚は教室に入りづらくて涙を堪えながら屋上へ向かった。
泣いているところを見られたくなかったからだ。
ゆっくりだが、いつものペースより速く歩いた。
下を向きながら歩いていると誰かとぶつかった。
「…すいません…」
そう言って顔を上げると純だった。
「渚ちゃん?」
「…純くん…」
「どうしたん?もしかして屋上行くとか?」
渚は軽くうなずく。
「じゃあ、オレも行く」
そう言う純に
「ダメッ!授業さぼるなんてダメだよ。純くんには迷惑かけたくない」
そう必死に渚は言ったのだが
「いつどこでオレが迷惑なんて言った?といってもきのう会ったばっかりだけど」
と笑顔で言う純。
渚はまた
「ダメッ。ダメダメダメッ!」
と必死に言ったが
「大丈夫。ちょっと待ってて。オレ友達に保健室に行くって伝えてくるから」
そう言うなり純は走って教室に行ってしまった。
2~3分で純が戻って来て2人で屋上へ行く。
先生たちにバレないように。
先生たちにバレないようになんとか屋上に着いた。
ヒンヤリした風が2人を包む。
「さっき泣きそうな顔してたけど、どうかしたん?」
何も言えない渚。
イジメられてるなんて言ったら嫌われるに違いない…と渚はそう思うのだった。
何も言えない渚に純は
「その手紙何?」
と言った。
「えっ!?…あっ…」
屋上に行くことに必死で、手紙を持っていたことを忘れていた。
「クシャクシャだ「何でもないの!」
「えっ?」
「強く握り過ぎて、クシャクシャになっちゃった」
てへっと笑う渚。
「会ったばっかりで言うのも変だけど。今の渚ちゃん、無理して笑ってるようにしか見えない」
「そんなことないよ。元気元気!」
「ううん。何となくだけどそんな気がする」
実際に渚は無理して笑っていた。
「笑えないときは無理して笑わなくていいんだよ。泣きたいときは泣きな」
純の優しい言葉に渚は泣いてしまい、涙が止まらなくなった。
そんな渚に純は、優しく背中をさすった。
「イジメにあってるんだろう?」
「えっ?」
「足が悪いのが原因でイジメにあってるんだろう?」
「何で分かったの?」
「何となくそんな気がした。オレの妹もそうだったし。きのう一緒に帰ったとき足引きずってたから」
「妹さんいるんだ。いくつ?」
「今生きてたら中3」
「あっ…ごめん」
「いいよ別に。オレから話し始めたことだし」
そう言って妹の話しを始めた。
「オレの妹は小さい頃から耳の聞こえが悪くて補聴器をつけてた。しゃべり方も変わってて。小学校の時はまだイジメられるようなことはなかった。でも中学になったら、近くの小学校と自分の小学校が同じ中学で、イジメられるようになった。しゃべり方がキモいって。最初のイジメは悪口だけだった。それだけなら妹もまだ堪えられたかもしれない。でもだんだんエスカレートして。トイレに閉じ込められて水かけられたり、先生にバレないように掃除を1人でさせられたりいろいろされて。オレ1度だけびしょびしょの妹見てビックリしたなぁ」
渚は真剣に聞いている。
「我慢したけど、もうダメだと思ったんだろうな。2年のときに自殺した。飛び降り自殺だった。しかもオレの目の前で飛び降りた」
「そんなことがあったんだ。妹さんの辛い気持ちよく分かる。あたしも中学のときにイジメを受けてたから」
「オレ自身はイジメられたことないけど。身近な人がイジメにあってるのをいつも側で見てたから分かるんだ」
2人の間には穏やかな
妹思いで優しい純になら、この手紙見せても大丈夫かもと思った渚は、手紙を見せることに。
「この手紙なんだけど…」
「見せたくないなら無理して見せなくていいよ」
「ううん。見てほしい」
そう言って手紙を純に渡す渚。
手紙を見た純は、驚いて目を丸くした。
「こんなこといつも言われてるわけ?」
「消えろとか来るなとかはよく言われるけど。足のことをこんな風に言われたのは初めて。陰で言ってるんだろうけど」
「辛いことがあったら何でも言えよ」
「ありがとう。教室に戻ろう。1時間目終わるし」
2人はそれぞれの教室に戻った。
会ったばかりなのに、渚にとって純は大切な存在になっていた。
その日の帰り、純と帰るために渚は、純のクラスの近くで純を待っていた。
純はやって来るなり
「ごめん!ちょっと担任に渡したいものがあるからって言われて。ちょっと職員室に行ってくる。すぐ終わるから」
と言った。
「分かった!待ってるね」
そして純は急いで職員室に向かった。
純がいなくなってから渚は、暇そうにボーッと待っていた。
すると向こうから誰かが、渚に向かって歩いてくる。
渚は、どこかで見たことあるなぁと思うぐらいで気にはしなかった。
その人物は、渚にとって辛い日々の始まりに過ぎない人に…!?
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