第1005話

「あ!! そう言えば師匠!! ハーボウ、師匠のとんでもない秘密を知っちゃったですぅ!! 知りたいですか!? 知りたいですよねぇ!?」


「……別に」


「えぇー、これ魔法協会の理事会にチクったら、師匠絶対に宮廷魔術師クビになるのになぁ? いいのかなぁ? 今の職失っちゃっても? そんなんでハーボウ養っていけるのかなぁ?」


 養われている身でどうしてそういうことが言えるのか。

 もったいぶった言い草をするアホ弟子に肩を落とすノエル。壁を修復する作業の手は休めずに、なんですかと背中を向けたまま彼女は弟子に尋ねた。


 にんまりと満足げに笑うハーボウ。

 師匠使いは、どうやらこの新しい弟子の方が上手らしい。


「一緒に子守をしてたエドワールくんから聞いちゃいました。師匠、時間遡行の魔法を使って、歴史を修正したことがあるですよね?」


「……へ? そんなこと、ありましたっけ?」


 ありましたよぉとハーボウ。

 自分が体験したことでもないのに、頑なに彼女はそれが事実だと主張した。


 もちろん、彼女が言っているだけならノエルも信じないのだが。


「あのエドワールくんが嘘を言うとは思えませんしねぇ。けど……」


 エドワールの名が出て来たことに、彼女はどうもひっかかりを覚えた。

 パラケルススの孫。天才少年魔法使いエドワール。今、パラケルスス派の若手魔法使いの中でも、めきめきと実力をつけてきている成長株の魔法使いだ。


 少し人嫌いな所はあるが、基本は誠実で嘘をつかない善良な青年である。


 そんな彼が、ノエルが禁忌を犯したと言う。

 これはひょっとして、若気の至りで何かをしたのだろうか。

 昔の記憶――今となっては黒歴史な厨二病だった弟子の頃のことをノエルが思い出そうとした時。


「けどけど、大切なのはそこじゃないですぅ!! ハーボウ、師匠に負けたままっていうのが、気にくわないですぅ!!」


「はぁ」


 突然、また昔の自分みたいなことを弟子が言い出し、ノエルは思考を放り出した。

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