第835話

「しかし、フラゥコンは生きていた」


「……そして、どうやら、一麦の重さの錬成と、魂の源泉の中で見た極彩色の輝きの錬成について、研究を続けていた、ということですか」


 あらかじめ、ハーボウの素性について、朝倉はパラケルススに報告を入れていた。

 彼女が、大魔術師グランドキャスターより作られた疑似生命体ではない、確かな魂を持つものであるということは、承知している。


 彼は、研究を止めていなかったのだ。

 そして、おそらく――。


「あのフラゥコンは、極彩色の輝き――ディアボリクァの魂を生成し、ハーボウの魂の座へと据えようとしている、と考えられる」


「……生命の根源に至るというだけでも厄介ですのに。厄介に厄介を重ねるような出来事ですわね。勘弁していただきたいですわ」


「すまぬな、クローデット、それに、朱鷺子」


 はぁ、と、顔を見合わせて溜息を吐く弟子二人。


 不肖の弟子にして、パラケルススの高弟である彼女たち。

 いつもは歯に衣着せぬ物言いをする彼女らだったが、流石にその憔悴しきった老人の姿に――今回もまた口を慎むのであった。

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