第834話

「フラゥコンはそれに魅了された。そして、魂の源泉から、リーファを掬いだすことも放り出して、彼は失踪したのだ」


「……なんのために?」


「おそらく、彼が見たディアボリクァをこの世界に顕現せしめるためだろう」


 以降、娘の死を受け入れることができなかった、パラケルススの師は、自らを魔法の業火で焼き尽くして自殺を図った。

 パラケルススはといえば、師と兄を失った悲しみから、しばらく無頼の徒となり、気が付くと回国武者修行をし、大陸最強の名を得るに至った。


 そこから持ち直し、今に至る。


 そしてすっかりと今の今まで、兄のことなど、彼は忘れ去ってしまっていたのだ。


「考えなかった訳ではない。時たま、彼について思い出すことはあったのだ。だが」


「……魂の源泉に至ることなど、そう易々と出来ることではない」


「死んでいるだろう、と、思っておられたのですね」


 そういう所だ、と告げたパラケルススの眼には光るものがあった。

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