第818話

 場所を取調室から、捜査一課のデスクに移動して、ノエルとポン子は話を続ける。


「そもそも、朝倉以外に、パラケルススと親交のあった人間はいないポン?」


「パラケルススの爺さんは、そりゃもう悲しいくらいに哀れな独居老人だったんだよ。実の娘とも絶縁状態。孫とも顔を合わすこともなく、陶芸教室も、開いちゃいるけど閑古鳥が鳴く始末」


「ポン。それは悲惨だポン」


「そんな設定のパラケルスス老人に、唯一接していたのが、あの朝倉・クラヴェル・クローデットだ。わざわざ月謝に三万円まで払って、陶芸教室に通っていたんだぞ」


 月謝の高い低いはさておいて。

 怪訝な顔をしたのはポン子だ。


 むぅと彼女は顎に手を当てて首をかしげると、おかしくないですか、と、ノエルに面と向かって異を唱えた。


「ポン。そこまでして尽くしている相手を、はたして殺害しようと思うでしょうか」


「……わからないのか? ポン子よ?」


「ポン?」


「人間ってのはさ、その対象に向ける愛が深ければ深いほど、それが転じた時の衝動という奴も大きくなるものなのさ」


 なんかそれっぽいことを言っているなぁという感じにノエルを見るポン子。

 と、その頭に、どこから飛んで来たのかダルマがぶつかった。


「勝手に、あの爺と俺をそいういう関係にするんじゃねぇ!!」


「師匠!! 現代モノなので、魔法は使わないでください!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る