第813話

 幾らなんでも分が悪い。

 朝倉がそう思ったその時だ、瓦礫の中から、一閃――黒い影が伸びて、男の刺青が施された魔手が跳ね上げられた。


 不意を突かれた。

 そして、その攻撃の主が意外だったのか、鉄柵の仮面の男がそちらを凝視する。


「……魔術の深淵じゃと? ワシを仕留め損ねるようなお主が言うてみたところで、そんなものはお笑い種じゃて!!」


「……師匠!?」


 ずもり、と、瓦礫の下は土の中から這い出てきたのは、パラケルスス。


 どうしてそんな場所から、彼が出てくるのか。

 また、なぜ、死んだふりをしていたのかは分からない。


 だが、これで形勢は逆転した。


「パラケルスス、貴様ぁっ!!」


「フラゥコン!! ワシがあの程度のやり取りで死ぬほど、耄碌したと思うてか!! そろそろ馬鹿弟子が帰って来る頃じゃろうて、わざと気配遮断して死んだフリをさせて貰ったのよ!!」


 流石、師匠、やることがえぐい。


 そう思いながらも、朝倉。

 彼女は、目の端にじわりと涙を湛えたのだった。

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