第811話

 風の刃は溶岩で出来た竜の体を裂くことができるのか。


 燃え盛る炎を断つことはできたそれ。

 だが、実質的な質量を伴っている、火炎の竜を断つことは不可能である。

 そう朝倉は考えていた。


 しかし。


「四属魔法に拘る辺りが浅はか。魔道はそれだけではない」


「……純粋魔力のことか?」


「違う」


 こういうことだ、と、振り上げた鉄柵の魔法使いの指が光る。

 親指に刻まれた紋章が緑色から橙色に変色したかと思えば、黒い球体が突如としてその場に現れた。


 まずい、と、直感的に朝倉が危機を感じて後ろに飛ぶ。


「……虚構魔法、重力限界トロワ・ノルワ!!」


 途端、黒い点に向かって吸い込まれる朝倉の火炎の竜。

 踏ん張るがそれも虚しく、成す術もなく巨体が黒点の中へと吸い込まれていく。


 一瞬にして、その火竜の巨体は、虚無の黒点の中へと消失した。


「魔道の深淵は深い。お主も魔法使いならば、虚構魔法くらい知っているだろう?」

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