第810話

 どうやら、鉄柵の仮面の男ことフラゥコンがこうして出張ってきたのは、ハーボウの回収のためだったようだ。


 彼女が朝倉の手に落ちたことを知り、急ぎ、パラケルススに化けてそれを奪取しに来たという所だろう。


 もちろん、それを考えなかった朝倉ではない。

 しかし行動が早すぎる。


「そんなに大切かよ、お前さんのこの哀れなお人形は」


「神の座へと至るためには。朝倉氏、君には負けたようだが……間違いなく、彼女は私が考えうる、最高の次なる世界の支配者の器に相応しい」


「脆弱な器だぜ」


「それを補うのが私の役目にして宿願」


 その宿願もここで潰えるがな、と、朝倉。

 彼女がかぶりを振れば、再び、大きく火炎の竜が咆哮をあげた。


「脆弱なのは、お前の魔法であろう」


「……なに?」


「練りこみが足りん。そんなもので、この私を止められるとでも?」


 鉄柵の下のしわがれた顔が、にやり、と、微笑んだ。

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