第793話

 一麦の重さの錬成。


 つまるところ、それは人間の魂を生み出すということである。


 それは、疑似生命魔法を研究する魔法使いたちの一大テーマだ。

 そして、今までにそれを証明してみせた魔法使いはいない。


 あの南条でも、疑似魔法の域を出ることはできない。

 彼女の弟子であるカミュの、一見すると魂を持っているように見えるそれも、ホムンクルスという、高度疑似生命魔法の術式による反応でしかない。


 故に、生命魔法などという煮え切らない呼称になっているのもまた事実。


 人間に魂を作り出すことなど出来るはずがない。

 しかし二律背反なのがこの世の研究者の常。できないが故に、南条を代表とする疑似生命魔法の大家たちは、それの錬成と証明を目指す。


大魔術師グランド・キャスターってのは、疑似生命魔法の研究者か」


「そうなりますね」


「それで、お前の中に宿っているそれは、本物の一麦の重さだと?」


 いいえ、と、ハーボウはその顔を横に振った。

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