第790話

「……ならばここには用はありません。ごきげんよう朝倉氏」


「待ちなよお嬢ちゃん。ちょっとお姉さんと、難しい話でもしていこうじゃないか」


 咄嗟、監獄長の部屋に緑色をした光の線が走った。


 それは魔術の牢獄。

 触れればその対象を焼き切る魔術の鉄格子であった。


 せっかく掴んだ仮面の者たちへの手掛かりである。

 みすみすと、それを逃すわけにはいかない。


 朝倉の機転は実に見事であった。


 しかし――。


「……こちらから去ろうと言っているのに、引き留めますか。彼我の力量の差を見誤るとは、大陸最強の名は虚飾のようですね」


「見誤っちゃいないさ。てめえ程度の小娘に後れを取るほどおいさばらえちゃ――」


 そう言いかけた、朝倉の口が止まった。

 それは、彼女がその顔にかけていた、フクロウの面を取ったからだ。


 新雪のような白い肌には見覚えがあった。

 何度となく、彼女はそれを目にしてきた。


 それ故に、何故、少女がフクロウ面を被っているのか、朝倉には分らなかった。


「……カミュ!?」


「……あぁ、そう言えば、姉には既に会われていたのですね、貴方は」

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