第761話

 ギムレットの工房の端には、最低限の生活が送れるような居住区がある。


 樫の木のテーブルに同素材の椅子。

 ひじ掛けのついたゆったりとした椅子に腰掛けると、ギムレットはテーブルの上に置かれていたパイプを手にした。


 ここで、師匠どうぞと火を差しだす――のができた弟子なのだろう。


 しかし、ノエルにそんな殊勝さなどありはしない。


「また煙草ですかぁ? 体に悪いですよ?」


「分かっとる。しかしな、こればっかりはやめられん」


 ありきたりなやり取りをしてギムレットは、火皿の中に煙草を詰め込む。

 そして、再び立ち上がり、こうこうと燃える溶鉱炉に彼は近づいた。


 薪と一緒に置いてあった藁の束。

 それを近づけて、火を溶鉱炉の中から取り出す。


 そのまま、彼は煙草が押し込められたパイプ中へと藁を落とす。

 すぅと穏やかに空気を吸い込んで、器用に一回で火を着火させると、彼はテーブルに戻ってきてふぅと紫煙を吐き出した。


 煙草を嗜むドワーフの横で、ノエルは自分で淹れた紅茶を飲み始める。


 これが、この二人の、いつもの休憩の光景であった。

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