第760話

「ほれ、ここまでのやり取りが心を鍛えた成果と言える」


「うん? どういうことです?」


「お前さん、話をしながらも、一切、鉄を挟んでいる鋏を動かさなかっただろう」


 そう言われれば、そうだったかな。

 と、ノエルが不思議そうな顔をする。


 水の中に沈んでいたサーベルの刀身を持ち上げれば――なるほど思わず唸りたくなるような見事な出来栄えに仕上がっていた。


 ながら作業で、気の抜けた状態でできるものではない。

 また、ギムレットがしっかりと鉄を打っただけではこうはならない。


 それと同時に、ノエルが鉄をしっかりと鋏で支えていたからこそだ。

 これだけ綺麗な業物のサーベルが仕上がったのだ。


「今、俺はあえてお前に、鉄を打つ作業をする際中に話しかけるということをしてみた。それで心を乱して、鉄を持つ手が震えるかと――それを試してみたんだ」


「はっ!? ノエル、試されていたのですか!?」


「……結果は合格だ。俺の言葉を受けても、お前は一切心を動かさず、挟んでいる鉄の塊を動かさずに持ち続けた」


 心が動じず、落ち着いていなければ、このようなことにはならない。


 ギムレットはそう言い切ると、出来上がったサーベルの刀身を横に避けた。


「少し休憩するか」


 ぶっきらぼうなドワーフの師は、笑顔もなしに弟子に休憩を持ち掛けた。

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