第759話

 確かに言われてみると妙な話である。

 格闘技の修業と言われてやってきたノエル。

 しかし、それといった技を教えてもらった覚えもない。


 また身体についても、多少ぜい肉は落ちた気がするが――取り分けて急激な変化があった実感もなかった。


「今、お前は、確かに言われてみれば、技も教えてもらっていないし、身体も言うほど成長してないな――なんて思っただろう」


「どうしてそれを?」


「分からいでか。だいたいこの話をすると、そう思うもんだからな」


「――あれ? 師匠のもう一人の師匠は、師匠以外にもお弟子さんを取られてるんですか?」


「ちょっとややっこしい質問だな。まぁ、朝倉以外にも何人か、稽古はつけたぞ」


 お前もその一人だがな、と、ギムレット。

 カンと音を立てて鉄を叩ききると、彼は金槌を傍らに置いた。


 すかさずノエルが鋏をギムレットへと渡す。

 そのままギムレットは、地面を掘り返し水が蓄えられている場所に、まだ赤熱した鉄を鋏で掴んだまま入れた。


 じゅうという音と共に水蒸気が辺りに満ちる。

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