第745話

「ダイジョウブカイオジョウサン、ケガハアリマセンカ」


「……え、えぇ。大丈夫ですぅ」


「ソレハヨカッタ。オット、ヒザガスリムイテイマスヨ」


 大根役者もいいところ。


 ポケットからどうして持っていたとばかりに、絆創膏を取り出した朝倉。

 彼女はそれをノエルの膝小僧にはりつける。


 余所見をしちゃいけないよ。

 そんな言葉を残して朝倉は、そのまま交差点の向こうに消えてしまった。


「びっくりしたぁ。けど、あの制服……うちの学校のだよね?」


 あんな顔の人いたかしら、と、古臭い少女漫画テンプレな感じでときめくノエル。

 もしかして転校生? それとも先輩?


 そんな感じの顔をしているうちに、刻一刻と時間は過ぎていく。


「いっけなーい!! こんなことしてる場合じゃなかった!! 遅刻遅刻!! 遅刻っしちゃうよぉー!!」


 はっと気が付いたノエルは、再び、フルスプリントモードで走り出す。


 しかし時すでにおそし。

 彼女の進行方向では、授業開始を告げる軽やかな鐘の音が響いていた。

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