第744話

 交差点。


 田中ノエルはそこで偶然にも、曲がり角の陰から出て来た人物とぶつかった。


 スプリンターモード全開。

 地元の暴走族から、ジェットノエルの名で恐れられている、彼女の本気走り。

 それは、ぶつかった軽トラックを逆に破損させる勢いがある。


 それを横っ腹にもろに喰らいながらも、その人物は、毅然とそこに立っていた。


 いや、毅然。

 というより、唖然。

 呆然、という感じで。


「ごめんなさーい!! 私ったら、考え事してて!! 怪我はないですか!?」


「……なんでや」


 そこには襟爪の付いた黒い学ランに身を包んだ、長髪の男が立っていた。

 いや、男に見える人物が立っていた。


 はっと、ノエルがときめき顔――○ペンのみこちゃんがやってそうな――をする。

 そんな中、もう一度、その学ランを来た男らしい奴は、小さくつぶやいた。


「なんで俺がノエルの想い人役なんだよ。というか学ランて。俺、女なんだぞ……」


 打ちひしがれる彼女の名は朝倉。

 本編に続いて二度目の男装に戸惑いを隠せない、本来であれば三十路間近の――。


「年齢のことはいいから!! 早く話を進めてくれ!!」


 あ、はい、すみません。

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