第741話

 眺めているうちに、中年くらいの男性がスロープの前に立った。

 車いすに座る彼は反動をつけてスロープへと寄りかかるように移動する。


 危なっかしくスロープへと移った中年男性。

 それから、一歩、また一歩と、少しずつ彼は歩いていく。


 その歩みは牛歩と言っていい。

 あんまりにも遅く、そしてぎこちない。


 見れば彼の右足にはくの字に曲がっている義足がついていた。


「この通り、リハビリというのは、一朝一夕にできるものではありません。幾多の苦労を乗り越えて、多くの人に支えられて、ようやく実現されるものです」


「大変でしょうな。幸か不幸か、私は身内にここにお世話になったものがいないので、ついぞ知りませんでしたが」


「そうでしょうそうでしょう。そういうものかと思います。私たちのやっていることは、あまり喧伝するようなものでもございませんしね」


「いや、そんなことは。もっと、世によく知られるべきことかと思いますが――」


 とまぁ、そんなやりとりをしているうちに。

 ようやく朝倉にも彼が何を欲しているのか見えてきた。


 それが表情から分かったのか、チュルパンが、破顔して朝倉の方を向く。


「少なくとも、今、最も知ってもらいたい人に、知っていただくことはできました」

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