第742話

「私たちが欲しているのは、朝倉先生が研究なされている、身体強化の魔法そのものです。患者たちにその魔法をかけることで、少しでも、リハビリの手助けになればと、我々は考えているのですよ」


「――なるほど。そういう使い方は、今まで、私も考えたことはありませんでした」


 根が、求道者タイプの朝倉である。


 すっかりと、思い込んだらその道をひた走る。

 朝倉はどうしても、自分の利益でしかものを考えることができない。

 そして、自分の研究したものを、自分の目的でしか考えられない。


 そういう所があった。


 しかし、言われて初めて気が付く。

 自分の魔法を役立てる、研究している内容を役立てる場所が、こんな所にあったのだということに。


 横でニヤリと笑ったパラケルスス。

 その笑いを牽制するように、じとりとした視線を朝倉は浴びせた。


 この野郎、まるで、ようやく気が付いたかとでも言いたげな顔をして。

 と、人前でなければ食って掛かっていたことだろう。


 しかし、久しぶりに師として、彼に導かれたのは事実。


「どうでしょう、朝倉先生。微々たるものですが、先生の研究に、私どもとしても出資させていただきたい。その見返りとして、その身体強化の魔法を、教えていただくことはできないでしょうか」


「――昔の俺なら、関係ないね、と、突っぱねるところなんでしょうがねぇ」


 そんなことを言った矢先だ。

 スロープを握り、歩いていた中年男性が、バランスを崩してまえのめりに倒れそうになる。咄嗟、朝倉は魔法を発動させると彼の下半身を強化した。


 強靭な踏み込みの力を手に入れた中年男性。

 その場でどうにか、バランスを取り、危うく転倒するのを免れた――だが、どうしてそんな力が出たのか不思議そうな顔をしている。


 そんな彼を眺めて、朝倉は満足げに微笑んだ。


「今はちょっと研究資金に困っていてね、助けられたいし、助けたい気分なんだ」


「おぉ、それでは!!」


「受けましょう、この仕事。こんな俺の魔法でも、役に立つ、欲しいというのなら、幾らでもお教えいたしますよ」


 そう言って朝倉はチュルパン所長に、今度は自分から手を差し出したのだった。

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