第739話
所長、という肩書を聞いて、ぎょっと朝倉が目を剥いた。
そんな彼女の表情を笑い飛ばして、チュルパンはぶんぶんと手を振る。
「いやはや、身体強化の魔法の研究、実に面白いですな。自分の体を強化するというのは、高名な魔法使いであられながらも、格闘家でもあられる朝倉どのらしい研究対象かと思っております」
「そりゃどーも。って、そこまで言ってくれちゃいますか」
「言ってくれちゃいますよ」
「……なんでまたそんな、俺の魔法に興味なんかを。言ってしまえば、こんなもん道楽みたいなもんで、なんの役にも立たないものですよ?」
朝倉はぶっちゃけた。
自分のしている研究に対して、それが世の役に立つものではないと公言することなど、魔法使いとしも研究者としても、言ってはいけない最たるものである。
しかし、それでもそう言ってしまった。
実際問題として、自分のやっている研究が、言葉の通り、世の中にとって無用の長物であると、彼女は常々思っていたからである。
人を殴るために、拳を固くする魔法にどんな意味があろうや。
人を蹴るために、脚を固くする魔法にどんな意味があろうや。
魔法戦闘術――確かにそれを使う者も少なからず居る。
だが、そんな者たちからも、打撃力を上げる魔法など、意味などないとそっぽを向かれる始末だ。
正直言って、朝倉は自分の研究を、あまり肯定的に捉えていなかった。
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