第736話

 それは願ってもみない申し出だった。

 いや、というか、そもそも魔法協会から、普通に助成金を貰えばいいのだが。

 どうして回りくどいことをするのだろうかと、朝倉は少し考えた。


「どうせお主のことじゃ、ワシに嫌味を言われたくないんじゃろ?」


「すべてお見通しってか」


「分からいでか。で、魔法協会には助成金の申請を出さんつもりじゃろう?」


「そこまで分かっているなら、もっと色々と手配してくださいよ、師匠」


「ワシ、弟子は谷底に突き落として育てる派じゃから」


「ハッハッハ!! 俺は這い上がって、師匠を谷底に引きずり込む系の弟子でしたわ、今更思い出しましたよ!!」


 朝倉の眉間に皺が寄った。

 老人の要らぬ気づかいが正直に言って勘の虫に障ったのだ。


 しかし、怒ってみたところで、それでどうなるものではない――。


「で、その師匠がお膳立てしてくれる、ありがたい団体は、いったいどういうところなんです?」


 しかし。


 そこは一応、酸いも甘いも噛み分けてきた、朝倉魔術師である。

 師パラケルススの言葉に、苛立ちつつも乗ることにしたのであった。

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