第733話

「くっそー。せめて師匠が同格の理事だったら、俺も遠慮なく助成金の申請をしているのになぁ。なんで理事長のポストに収まっちまうかな、あの爺さん」


 そのおかげで、公職追放という軽い刑で済んだ。

 その事実をすっかり忘れて、この言いぐさである。


 もっとも、そのパラケルススが、魔法協会の理事の席についたのも、元をたどれば彼女の弟子――ノエルの奴が要らぬことをしたからではあるが。

 まぁ、それは朝倉の預かり知らぬところである。


「師匠のことを考えると、魔法協会からの助成金はちょっと受けられないよな」


 もちろん、受ける受けないは当人の判断である。

 別にこの場合、受けないことに特別な意味がある訳ではない。


 単に彼女が、師匠のパラケルススから、嫌味を言われたくない。

 という、ただそれだけ――。


 ようは面子の話だ。


 まぁ、そういうことにこだわってしまうのは、人間として仕方のないことだろう。


「ほかの所からの助成金か。何かいい団体あったかなぁ」


 と、朝倉は工房の資金繰りについて思いを巡らせるのであった。

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