師匠と独立開業

第731話

 さて。


 弟子の修行をまるっとギムレットに任せた朝倉。

 工房に籠って仕事に精を出す彼女であったが、その仕事ぶりは――。


 驚くくらいに順調であった。


「まぁ、宮廷魔術師辞めたところで、顧客が居なくなるわけじゃないしな」


 そういう肩書のために、王宮に住まい、王族関連の仕事を請け負っていた朝倉。

 しかし、彼女にというのは、宮廷魔術師だろうとなかろうと多くいるのだ。


 王都から離れた山奥。

 アクセスの悪い場所に工房を移動したとは言っても、彼女は魔法使い。


 連絡を取る手段は幾らだってある。

 いざとなったら新しく宮廷魔術師となった南条が彼女との橋渡しをしてくれる。


 仕事が減るということはなかった。

 むしろ、王族関連の急な仕事がなくなっただけ、集中して物事に取り組める。


 言っちゃ何だが、辞めたおかげでいい循環に入っていた。


 おまけに、今は弟子もギムレットに預けて、ほったらかしだ。


「いや、順調順調。順風満帆な独立開業だわ――って、言いたいんだけどな」


 それでも悩みがない訳ではない。


 というのも、やはりそれはそれ。

 お賃金の問題である。

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