第722話

 優雅な南条の朝食は優雅なティータイムによって終了する。


 白亜のティーポット。

 その注ぎ口からいい塩梅に朱色に染まった紅茶を、銀色の装飾が淵に施されているティーカップへと注ぐ。


 二人分のそれ。

 そしてジャムとバターが塗られたスコーン二個が載った皿を手にして、南条がキッチンから再びテーブルへと戻って来た。


 待っていたカミュの前にティーカップを置く。

 すると、すかさずという感じに愛弟子がスコーンを手に取った。


「こらこらがっつかないの」


「――だって」


「焦らなくっても、スコーンは逃げませんわよ」


 そうして二人は、食後の余韻を楽しむのであった。


「――師匠の焼きたてスコーン美味しいです」


「ジャムが決め手でしてよ。これは、魔法素材の仕入れ先として、贔屓にしている農家さんの自家製ですの」


「――おぉ、どおりで、新鮮な味がする」


 オレンジマーマレードが載ったスコーン。

 ジャムを、落とさないように落とさないように、と、気を付けて食べるカミュ。


 しかし、どこか不器用なところのある彼女。

 不意にその指先を、マーマレードの黄色い汁が流れた。


 あらあらカミュ、と、たしなめるように言う南条。

 しかし、彼女は優しげに微笑み、弟子の手に純白のナプキンを添えるのだった。


「優雅な食後が台無しでしてよ」


「――あ、ありがとうございます、師匠」


 その背景には、白百合が咲いているように見えた。

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