第720話

 入浴を終えると、彼女はすぐに部屋着へと着替える。

 そうして次に向かったのはキッチンだ。


「さぁ、今日はいったい何を造ろうかしら」


 実はこの南条氏。

 疑似魔法生命体の大家であると同時に、料理の腕前も大したものだったりする。


 その腕前は、前任の大陸最強をして、「下手な名前だけの高級店で食うより、南条の手料理を食った方が当たり」とまで言わしめる実力である。


「今日のカミュのトレーニングはハードなものですから。少し、元気の出る料理がいいですわね。けど、朝からニンニクというのもなんですし」


 などと、呟きながら。

 さくさくと、パプリカ・オニオン・レタスに赤魚。

 手際よくさばいてく南条氏。


 流石の腕前である。


 と、その時だ。


「きゃぁっ!! もうっ、新鮮すぎますわねこのトマト……」


 トマトを切った途端、その汁が飛び散った。


 彼女のたわわに実ったダブルトマト。

 それを覆っているエプロンに緑のエレエレがかかる。


 谷間に落ち込んでいくどろりとしたその液体は――実に


 朝倉氏ではこうはいかないだろう。


「もう。せっかくよい気分でしたのに。けど、新鮮なトマトをカミュに食べさせてあげれると思えば――ふふふっ、悪い気はしませんわね」


 それをさっと、手で拭い去ると、彼女はまた料理を再開した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る