第713話

 その後も、ギムレットは何度も何度も、薪を滝に流した。

 そして、ノエルはそれを何度も何度も、取り損ねた。


 結局、まともに取ることができたのは、胸元に滑り込んで来た一本。

 それと、無心で手の中に入り込んだのを掴んだ、二本だけだった。


「ほぉほぉ、すごいな。十倍の薪になったぞ。こりゃ下るのも大変だ」


「じょじょじょ、冗談でしょう!?」


「ワシは冗談は嫌いだ」


「こんなのカチカチ山の狸さんでも背負わない量じゃないですか?」


「まぁ、自分の集中力の無さを呪うんだな」


 山と盛られた薪を前に、さっと顔を青ざめさせるノエル。


 もちろん、これでも彼女も肉体派魔法使い、朝倉の弟子である。

 薪を背負って移動するくらいは、なんともない。


 しかしながら、行きのことを考えれば、顔も青くなるというもの。

 ギムレットに後ろから、斧で狙われているとなると、話はまた違ってくる。


「師匠の師匠、ここはお慈悲を!!」


「なんだよ。ワシ、優しいだろ?」


 もし、これまで彼がノエルにしてきたことが、優しいことなら、この世界はどれだけの優しさで満ちているのだろう。

 ノエルの顔に久しぶりに絶望の色が灯った。

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