第710話

 暗闇の中を薪を担がされ、山の斜面を駆け上がらせられること二時間。


 滝が流れ落ちる小川に出たところで、朝日が山頂から顔を出した。


「よし。ランニングの訓練はこれまでだ」


「はひぃ、疲れましたぁ。そして、死ぬかと思いました」


「大丈夫だよ。お前、ワシが武器の扱いをミスると思うか」


「……そういう問題じゃないです!!」


「うっかり滑って、ぐっさりなんて万に一つもないっての」


「そういう自惚れが危ないんです!! 油断大敵一安心ですよ!!」


 がはは、と、笑うギムレット。


 そんな彼を前に、ようやく休めるとばかりに、ノエルが薪を降ろして座り込む。


 すると――。


「おいおい、何やってんだ」


「へ?」


「はやく薪を滝の上に運べ。次の修行をはじめるぞ」


 予想だにしない師匠の師匠の言葉に、ノエルの顔がこちりと固まった。

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