第666話

 シャトー・ディフ・第四層。

 岩窟の間。


 ここはありとあらゆる魔法が使えぬよう、監獄長の手により幾重にも拘束魔法が施された場所である。


 更に、拘束具により体を戒められ、四肢を切断され、更に壁を埋め込まれるという――身動きどころから、自分の汗すら拭うことさえも許されない姿をした魔法使いたちが、そこには満ち溢れていた。


 更に、彼らには意識がない。

 全員が全員、瞳を閉じて、浅い呼吸で混濁した視線を虚空に向けていた。

 

 壁から延びる管には薄いピンク色をした液体が流れている。

 それは、十分に希釈されたブドウ糖と睡眠剤で、彼らはそれを静脈注射されているのだ。もはや監獄のオブジェというような有様である。


 あまりのむごい光景に、おぇ、と、ノエルがえずく。

 朝倉もまた内心では、この光景に嫌悪感を抱かずにはいられなかった。


 何事にも限度というものがある。


「こんなことして、大丈夫なんですか。というか、こんな風にするくらいなら、処刑した方がいいんじゃ」


「処刑できるような奴らでもないんだよこいつらは。それに、こいつらが極めた魔法には、少なからず価値がある」


「犯罪者でもですか?」


 そうだ、と、悲しい目をしながら朝倉は弟子の疑問に答えた。

 それは彼女でもどうすることのできない、魔法協会が定めた方針であった。

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