第639話

 寸勁。 

 拳一握りほどの間合いから、最小動作および最適動作により、絶大なる破壊力を生み出す打撃術である。当然、魔法に長じながらも武芸百般に通じる朝倉とて、それを心得ている。


 追い込んだつもりが、知らず、アラクネは追い込まれていた。

 無防備にさらされたその腹部――蜘蛛の腹に朝倉の鋼をも貫く拳が撃ち込まれる。


「うぐぁあああっ!!」


「――そっちがチェックメイトなら、こっちは王手だ。しかし、こんなくだらねえ任務に駆り出されて、こっちの気もおさまらないんだ!! 男と女の逢瀬のごとく、さぁ、もういっちょいこうか、箱入りお嬢ちゃん!!」


 アラクネの腹の中に手を突き入れたまま朝倉が詠唱する。

 それは燃焼系の魔法。自らの手を燃える鋼の塊と化して、相手に殴り掛かるものだ。


 しかし、いま、内臓を鷲掴みにしてそれを発すれば。


「おら、熱いのを中にお見舞いしてやるぜ。そのまま逝っちまいな!!」


「いっ、いぎゃあああああっ!!」


 アラクネは、そのいびつながらも美しい外骨格はそのままに、内側から朝倉の魔力の炎に焼かれることとなった。

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