第637話

 アラクネ。

 いわゆる上半身が人間、下半身が蜘蛛の形状をしているモンスターである。


 人間の知性を持った蜘蛛という表現が妥当で、その生態はどちらかといえば蜘蛛寄りだ。そのものずばり、自分の張った罠にかかった人間のオスを、食らう凶暴なモンスターである。


 これをどうして研究していたのか、まずは魔術の封印を施された創造主の男に問いただしたいところである。


 と、ぼやぼやとしていられる状況でもない。

 アラクネはすぐに地面に突き刺した八つの足を引き抜くと、かしかしと、その先についた岩を掃った。


「変な話ね、どうして女が男の格好をして、こんな処に居るのかしら」


「誰かさんが厄介ごとを起こしてくれたおかげでね。出動しなくちゃならなくなったのさ」


「誰かさんって」


「この状況で、お前、一人、いや、一匹しかいないだろうが」

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