第636話

「下水道の中に張り巡らされていた魔術糸じゃよ。組成は、蜘蛛のものに似ている」


 下水道に通じている路地裏。

 そして、最近いなくなったチヨ婆。

 代わりにいるはずだが、姿を見せない代わりの夜鷹。


 まさか、と、朝倉が路地裏に足を踏み込んだその時だ。


「女の肉はまずいから、あまり、食べたくないのよね。けど、訳ありって感じだから、仕方ないか」


 彼女の頭上から声がする。

 瞬間、とっさに身を退いた朝倉。そのつい先ほどまでいた場所には、八本の杭のようなものが刺さっていた。


 闇の中に揺れる艶やかに紫がかった黒髪。

 赤い目をしたその女――といっていいのか、異形の生命体は、驚くほど美しくそして残酷な微笑みを朝倉に向けていた。


「あら、避けた。素早いのねぇ、下等種族の癖に」


「アラクネかよ――なんちゅうもんを逃がしたんだ、うちのバカどもは」

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