第630話

 裏通りをのぞき込む朝倉。

 一応、胸はないけど顔はよい彼女である。覗き込んだほうが面を食らうのが、この裏通りの相場だが、どうして今宵は逆であった。


「あらぁ、いい男」


「おう。そりゃどうも」


「暇だったらどうだい。ちょっと奥で休んでいくのは」


「悪いんだけれど、俺もちょっと野暮用でね。ここら辺で、妙な蜘蛛なりなんなりみた覚えはないかい?」


「――なんだい、客じゃないのかい。じゃぁ帰りないといいたいところだけど、お兄さん、あたしの好みだからちょっとお話ししちゃおうかしら」


 あばた顔にあか抜けない体つき。田舎から身売りされた村娘という感じだ。

 さらに言えば、自分とそれほど歳が変わらない夜鷹に、きゃぁきゃぁと言われるのは、正直朝倉としては微妙な心境であった。


 しかし、情報を提供してくれるのなら願ったりかなったりである。


「なにか知ってるのかい」


「知っているっていうかね。噂なんだけれどね……」


 ぽつぽつと、少女は長い黒髪をいじくりながら、最近この裏通りに起こっている、不穏な出来事について語り始めた。

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