第629話
と、言うわけで、朝倉がやって来たのはうらぶれた色街の裏通り。
今回ばかりは弟子を連れていくことは場所的にできまいと、一人での来訪である。
当然、彼女が今回の調査員に選ばれた意図は把握している。びしっと男装で決めるだけでなく、魔法により髪を隠して完全に男になりきっている。
一つ難点をあげるとすれば、色街の裏通りを歩くには、ちょっとばかり身なりが良すぎるということだろうか。
「――しっかしまぁ、ここまでしっくりと男性服がなじむってのも、女として残念というか、思うとこがあるよな」
師匠から渡された支度金で、仕立て上げたオーダーメイドのスーツ。
出来上がったそれは、なんらほかの男性が着ていてもそん色がない、オーダーメイドの意味があるのかと疑問を抱くくらいに、普通の仕上がりの服だった。
胸がないのは仕方がないとして、くびれだとか、女らしい部分はほかにもあるだろうと思うのだが。
そんな虚しさを感じて、朝倉の表情が暗くなる。
「いかんいかん。そんな落ち込んでどうする。さっさとこんな不愉快な仕事は終わらせて、工房に戻らにゃぁ」
別に魔法協会以外の仕事も山積みなのである。
さっさと失踪事件の謎を解明して、工房に戻りたいというのは朝倉の本意だ。
もちろん、それだけではない側面もある。
「あんまり遅くなると、ノエルの奴がなにやらかすかわからんからな。うん、決めた、恥も外聞も気にしている時間がもったいねぇ、ちゃっちゃと済まして、ちゃっちゃと終わらせるぞ」
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